【4位:ゲゲゲの女房(2010年上期)】

 午前8時スタート第1作で向井理が演じたのは、水木しげる。放送当時、水木はまだ存命で、よくテレビにも登場した。飄々としていて、チャーミングな人だったが、「ゲゲゲの女房」も飄々、チャーミングなドラマだった。

 二つの台詞を紹介する。貸本漫画家として、貧乏暮らしが続く水木の言葉。一つ目。「お互い苦戦が続きますなー。でも、くよくよしないで、ほがらかーにやっとればええんです」。二つ目。「自分も貧乏しとりますが、好きな漫画を描いて生きてるんですから、少しもかわいそうなことありません。自分をかわいそうがるのは、つまらんことですよ」。

 苦戦して自分をかわいそうがりがちな私への、励ましと戒めに聞こえた。他にも水木の仕事への情熱、妻への愛情がキュートに描かれ、働く女子の「こうだったらいいな」が詰まった作品だ。

【5位:あさが来た(2015年下期)】

 明治に変わる直前に大阪の両替屋に嫁ぎ、女性実業家になり、日本初の女子大をつくるヒロインあさ。あさを励ます五代を演じ、ディーン・フジオカを「おディーンさま」にしたことでも有名。23.5%の平均視聴率は、今世紀朝ドラで最高。

 個人的には、実在の女性がモデルで成功を約束されたあさより、その姉・はつ(宮崎あおい)と夫・惣兵衛(柄本佑)がお気に入り。大阪一の両替屋の跡取りだった惣兵衛だが、時代に乗り切れず夜逃げ。農家の納屋で暮らし、やがてみかん農家になる夫婦。

 宮崎は一瞬上げる口角で、喜びを表現する。苦労が多くとも、人生と折り合いをつけようとする意志が伝わる。柄本が演じた、死の直前の惣兵衛は、誰に愛想笑いをするでなく、頭を下げるでなく、地に足つけて生きて来た、みかん農家になってよかったと語る。当時29歳の柄本の台詞で、60年以上であろう惣兵衛の人生が確かに感じられた。2人のうまさに、感動。

 と、ここまでで興味を抱いてくださった方、拙著『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』をお読みいただけたら、こんなにうれしいことはないと申し上げて、おしまいとしたい。(矢部万紀子

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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