
少し雰囲気が変わったな――。
そう感じたのは、今年2月のカタール・オープンで、敗戦後の彼女に話を聞いた時だった。
この大会での大坂は、初戦で勝つも試合中に背中を痛め、持ち味の強打を放つことができずに2回戦で敗退。それでも試合後の彼女は、「最後まで諦めずに戦い抜いたことを、誇りに思う」と言って目尻を下げた。
「ポジティブな姿勢をキープするという目標は、今季ここまで維持できているから……次に繋がる敗戦だったと思う」
カリフォルニア州インディアンウェルズ開催のBNPパリバ・オープンで、覚醒の時を迎えるわずかひと月前――オイルマネーに築かれた中東の町で、彼女は確かに変わりつつあった。
ハイチ生まれでアメリカ国籍の父と、日本人の母親を持ち、生まれは大阪市で育ちはニューヨークとフロリダ州――そのような国際色豊かなバックグラウンドと同様に、大坂なおみは、ユニークで多彩なパーソナリティーを、180センチの恵まれた身体に詰め込んだアスリートだ。
彼女に初めて会った人が抱く印象は、恐らくはいまだに「人見知り」や「シャイ」だろう。肩をすくめて面を伏せ、やや上目遣いに、相手の感情や出方をうかがうようにそっと顔を覗き込む。それはテニス会場に居る時も同じようで、他の選手たちも「彼女から人に話しかけることはほとんどない」「いつもヘッドセットで音楽を聴いているので、こちらから声を掛けにくくて……」と証言する。昨年末から大坂のコーチに就任したサーシャ・バヒンも、「会場で会ったらいつも声を掛けていたが、彼女は本当にシャイでね。そこから会話に発展することはほとんどなかった」のだと苦笑いした。
ところが、大坂と仲の良いとある選手に「大坂さんってシャイだよね」と水を向けると、「えっ!? すごくしゃべりますよ」との答えが返ってきて、驚いたことがある。そのことを当人に確認したところ、「実は……打ち解けるまでには時間が掛かるけれど、一度心を許した人には、ものすごい勢いでしゃべりだすの」と、これまた消え入りそうな声で、恥ずかしそうに明かしてくれた。