2013年夏の甲子園。常総学院は、準々決勝で前橋育英にサヨナラ負けを喫した (c)朝日新聞社
2013年夏の甲子園。常総学院は、準々決勝で前橋育英にサヨナラ負けを喫した (c)朝日新聞社

 明日23日に開幕する選抜高校野球大会。今年は第90回の記念大会であり、また夏の全国高校野球選手権は第100回大会という大きな節目を迎えることもあり、例年以上に注目度が高くなっている。

 そんな高校野球で、いつからか言われている格言がある。それが「甲子園には魔物が棲んでいる」という言葉だ。甲子園では、普通の試合では考えられないようなプレーや大逆転が頻繁に起こることから言われるようになった言葉ではあるが、どんな結果にも原因はあるものだ。過去に魔物の所業と言われたプレーを振り返りながら検証してみたい。

 まず、甲子園大会が普通と大きく違うところは1日の試合数の多さと過密スケジュールだ。多い日は1日4試合が行われ、夏の場合は10日間以上に渡って試合が続く。そして、甲子園球場の内野は土のグラウンドであるため、環境が変化しやすい。球場を管理する阪神園芸のグラウンド整備は、日本一とも言われているが、試合が進むにつれて球場のコンディションはどうしても悪くなっているのだ。

 グラウンドによって足をすくわれたのが、2013年夏の常総学院(茨城)である。準々決勝の第3試合で前橋育英(群馬)と対戦。9回ツーアウトまで2対0でリードし、5番打者の小川駿輝もセカンドゴロに打ちとって試合終了と思われた瞬間、打球はセカンドの進藤逸の前で大きくバウンド。このプレーをきっかけに同点に追いつかれ、延長10回でサヨナラ負けを喫したのだ。前橋育英はそのまま勢いに乗って、甲子園初出場初優勝を達成したが、あのイレギュラーがなければ、常総学院が優勝していた可能性は高かっただろう。

 夏の選手権大会に限られるが、もうひとつ甲子園大会で特有といえるのは、その暑さではないだろうか。ただでさえ暑い8月の炎天下に、グラウンドレベルの温度は40度を超えることも珍しくない。そんな暑さで5万人近い大観衆に囲まれて試合をするということ自体が“普通の環境”ではないのだ。昨年夏の甲子園を制した花咲徳栄(埼玉)で2年生ながら4番を務めた野村佑希選手に甲子園の印象を聞いた時も「とにかく暑かった」と語っており、地方大会以上に消耗を感じる場所であることは間違いない。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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