玄侑宗久さん(左)と道尾秀介さんのトークショー(撮影/朝日新聞社・北村玲奈)
玄侑宗久さん(左)と道尾秀介さんのトークショー(撮影/朝日新聞社・北村玲奈)
トークショーで語る、玄侑宗久さん(左)と道尾秀介さん(撮影/朝日新聞社・北村玲奈)
トークショーで語る、玄侑宗久さん(左)と道尾秀介さん(撮影/朝日新聞社・北村玲奈)

 僧侶で小説家の玄侑宗久さんと、人気ミステリー作家の道尾秀介さん。まるで共通点を見いだせない、親子ほどに年が離れた芥川賞作家と直木賞作家。玄侑さん(1956年生まれ)と道尾さん(1975年生まれ)の二人は、道尾さんが作家デビュー直後にファンだった玄侑さんの講演に足を運んだことから始まった意外な縁がある。そして今回、その二人が出版界でも異例の“タッグ”を組むことになった。果たしてどんな作品となったのだろうか? 東京・朝日新聞社の読者ホールで行われた2人のトークショーを取材した。

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 玄侑宗久さんの『竹林精舎』と道尾秀介さんの『風神の手』(共に朝日新聞出版)。偶然、同じ日に同じ版元から刊行された2冊の物語には意外なつながりがある。

 二人は互いの作品を読みあってきた。なかでも玄侑さんが、道尾さんの『ソロモンの犬』(文春文庫)にほれこんで、「登場人物のその後を書きたい」と直談判、キャラクターや設定を使うことを道尾さんは快諾した。東日本大震災の3日前だった。

「僕の小説の続編を玄侑さんが書くなんて」と驚き、喜んだという道尾さん。玄侑さんは「実はその頃すでに30枚ほど書いてしまってたんです」と明かした。

 夏目漱石『明暗』の続きを創作した水村美苗『続明暗』など、没後に別の作家が続きを書くという試みは過去にもあるが、現存作家の作品を同時代の作家が書きつなぐことは非常に珍しい。直木賞作家のミステリーを芥川賞作家が純文学として受け継ぐという異種格闘技のような様相もある。

『ソロモンの犬』は男女4人をめぐる青春ミステリー。大学生だった主人公は、玄侑さんの『竹林精舎』で出家し、福島の寺に入る。「震災が起きて、しばらく小説が書けなくなった」と玄侑さん。「だんだん彼らに震災後の福島へ来てほしいという思いが出てきて、はじめから書き直しました」

 一方、道尾さんの新作『風神の手』は、遺影専門の写真館がある小さな町を舞台に、いくつかのうそが思わぬ人々の運命を変えてゆくミステリー。道尾さんは「一陣の風がいろんな物語を生む。あのシーンやセリフが別の部分とつながって、というのは書いていて一番楽しい」と話した。

 執筆の途中で互いに読むことはなかったのに、出来上がってみれば、2人が想像していなかった共通点が次々と見つかった。

 これもまた、書き手の意思を超えた「偶然」のなせるわざかもしれない。