栽培のこつを聞くと、「わりと丈夫です」とざっくりした答えが返ってきた。とはいえ、暖かい地中海地方原産の植物なので、紫外線や遠赤外線を当てて暖めるなどの工夫もしているという。

 また、こんな話も聞かせてくれた。「年に1回、夏前になると休眠し、葉っぱが全部落ちてしまった状態が1カ月ほど続きます。葉っぱを見れば水をあげるタイミングが分かるのですが、頭だけ出しているので、生きているのかどうか分からず、ひやひやします」。なんとスリリングな。

 マンドラゴラ(マンドレイクともいう)はナス科の植物で、地中海沿岸や中国西部に自生する。根には幻覚や幻聴などを起こす毒があり、人間の胴体や手足に似た形に成長することもある。日本の植物学のパイオニア、植物学者の牧野富太郎が、著書「趣味の植物誌」(1948年)で、「有害植物で古来久しく迷信の的となつてゐた名高いものである」と記したように、「人型の根が発する叫び声を聞くと死んでしまう」などの伝説がある。

 マンドラゴラは、昔から国内外の多くの物語で扱われてきた。映画「ハリー・ポッター」シリーズでは、ホグワーツ魔法魔術学校の薬草学の授業で登場。生徒たちが耳当てで耳をふさぎ、鉢から引き抜くと、人型の根がじたばたと動きながら甲高い叫び声を上げる。

 引き抜くと悲鳴を上げるという伝説は本当なのだろうか。イングランドの丘の後藤さんは2013年、株が弱っていたため、植え替えを決行した。伝説のことは知っていたため、念のため耳栓をしてチャレンジしたところ、無事だったという。「当時のことはあまり覚えていませんが、ドキドキしました」

 10年以上前からマンドラゴラを栽培し、2014年以降、しばしば開花に成功しているという茨城県つくば市にある国立科学博物館筑波実験植物園にも聞いてみた。「マンドラゴラが叫び声をあげ、それを聞いた人が命を落とすなら、植え替えしている職員は何度も死んでいることになりますので……ありません」。同園でもマンドラゴラが花を咲かせ、13日から展示する予定だという。

 後藤さんは言う。「マンドラゴラは不吉な伝説が多いですが、その一方で、大切に育てると幸せになれるという伝説もあります。今回、園がこんなに注目されたのは恩返ししてくれたのかな」

 11日は淡路島でも雪がちらつく寒さだったが、コアラ館には次々とカップルや家族連れが訪れ、マンドラゴラの鉢の前で足を止めていた。後藤さんの手厚い世話は報われたようだ。(ライター・南文枝)