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 打ち上げた打球がドロンと消えた! まるで手品でも見ているかのようなビックリシーンが起きたのは、6月23日の阪神vs広島(マツダスタジアム)。問題のシーンは、1回裏、広島の先頭打者・田中広輔がメッセンジャーの初球をレフトに打ち返した直後だった。ライナー性の打球はグングン伸び、名手・福留孝介が懸命にバックしながらジャンプしたが、わずかに及ばない。もちろん長打コースだ。

 ところが、次の瞬間、ボールがドロンと消えてしまったから、「一体どうなってるの?」とスタンドも騒然となった。

 しかも、直後、橘高淳三塁塁審がグルグルと右手を回して本塁打のジャッジ。これまた、「???」である。田中も「本塁打では絶対にないと思った」そうだが、狐につままれたような表情で、ダイヤモンドを一周して本塁まで戻ってきた。

 実は、このジャッジは、リプレー検証をするために「とりあえず本塁打にしておこう」というもので、あくまでも暫定措置。そして、検証の結果、驚くべき事実が判明した。なんと、ボールは左翼フェンスのラバー部分に開いていたと思われる穴の中に吸い込まれていたのだ。

「福留選手が捕球したと思ったら、ボールもなかった。ボールを探したけど、なかった。まさかラバーをぶち破るとは思ってもいなかった。ボールがラバーを抜けるというのは初めて」(橘高塁審)

 まさに前代未聞の珍事だった。田中の打球は二塁打とされ、無死二塁で試合が再開された。問題の穴は、田中によれば、「松山(竜平)さんが練習中にフェンスに上ったときに開けた穴だと言ってました」とのこと。

 松山が“犯人”なのかどうかは断定できないが、ラバーフェンスは素材が柔らかく、傷つきやすいので、何かの拍子に穴ができてしまったようだ。その小さな亀裂部分にまるで測ったように打ち込んでしまう田中は、さしづめ“野球版ホールインワン男”といったところか。

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