楽天・高梨雄平 (c)朝日新聞社
楽天・高梨雄平 (c)朝日新聞社

 2017年もさまざまな出来事があったプロ野球。華々しいニュースの陰でクスッと笑えるニュースもたくさんあった。「プロ野球B級ニュース事件簿」シリーズ(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に2017年シーズンの“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「ルーキー編」である。

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 楽天ドラフト9位左腕・高梨雄平が4月6日のソフトバンク戦(Koboパーク宮城)で12球団のルーキーのトップを切って初白星を挙げた。

 5回から先発・森雄大をリリーフした高梨は2安打を許し、2死一、三塁のピンチを招いたが、柳田悠岐をカウント2-2から真ん中低めスライダーで二ゴロに打ち取った瞬間、思わずマウンドで雄たけびを上げた。

「柳田さんでしたし、1点もやれない状況。声は勝手に出ました」(高梨)

 6回以降は福山博之、森原康平、ハーマン、松井裕樹と1イニングずつの小刻みなリレーで3対1と逃げ切った。このようなケースでは、リードを保つのに最も有効な投球を行ったと記録員が判断した投手が勝利投手の権利を得られることから、高梨にプロ初勝利がついた。
   
「(ウイニング)ボールをもらって、俺が? っていう感じで。まさかこんなに早く勝ちがつくとは思わなかった」と本人も戸惑いつつ、うれしさを噛みしめた。

 思えば、天国→地獄→天国の野球人生だった。早大3年春、東大を相手に六大学史上3人目の完全試合を達成したが、その後、突然イップスになり、投球練習の際に球がホームプレートまで届かず、ワンバウンドしたこともあった。

 社会人のJX-ENEOSでも苦闘の日々が続くが、プロ入りの夢を諦めきれず、希少な左のサイドスローにモデルチェンジ。数少ない登板機会の中で必死に投げつづけるひたむきな姿が楽天スカウトの目に留まり、16年のドラフトで全体の最下位にあたる85番目、9位で指名を受けた。

 もし、指名されなければ、翌年から野手にコンバートされ、投手はクビになるところだったという。そんな崖っぷちからドラフト最下位指名を経て、ルーキー1番星。さらには14ホールドを挙げ、CSでも計3ホールドを記録するなど好投。こんな人生の大逆転劇があるからこそ、野球は面白い!

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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“13度目の正直”で待望のプロ初勝利