米国本土を守るために軍事オプションをトランプ大統領が検討し、日本に多大な犠牲が出るリスクがあることを前提にした議論が、米国内では実際になされているのです。

 しかし日本の中で目立つ議論は「北朝鮮に圧力をかければ、最後は折れて来る」という楽観論でしかなく、どういう根拠に基づく論理構成なのか私にはさっぱり分かりません。圧力をかけ続けることはそれだけ、偶発的な衝突や戦争に陥る危機を高めていくことになり、悪い方向になるリスクを高めていることが無視されているように思います。安倍政権もメディアもシビアな議論をしていないのです。

――同じように甚大な犠牲が出る韓国の対応は日本と全く違います。安倍首相が「(北朝鮮問題で)アメリカと日本は100%共にある」と言っているのに比べ、文在寅大統領は「朝鮮半島で韓国の事前同意のない軍事的行動はありえない」とアメリカに釘を刺しています。

尾形氏:韓国の文大統領が言っているのは「戦争になれば、国民に甚大な被害が出る。だからアメリカの軍事的行動には我々の同意が必要だ」ということです。トランプ大統領に嫌われるのかもしれないが、そう主張することが韓国の国益に適っていると考えているのです。

 アメリカでは「アップサイド(upside)」と「ダウンサイド(downside)」とよく言うのですが、アップサイドは上手く行った時、ダウンサイドは上手く行かない時にどうなるのか。日本の場合は「最後は折れて来る」というアップサイドの話はしているのですが、「暴発をしたらどうなるのか」というダウンサイドのことはちゃんと議論されていません。日本人の危機感のなさの現れだと思います。「そんなことは起こりえない」と、なぜか皆、頭の中で考えているのでしょう。

 8月頃から安倍政権内でも「『もしかしたら軍事オプションがあり得る』という危機感が高まってきた」と聞いていますが、その時に言われていたのが「覚悟を持たないといけない」といけない、という言葉でした。その覚悟の中身は、「たとえ100万人が犠牲になっても」ということになります。であれば、Jアラートを鳴らすだけではなく、その悪いシナリオも、きちんと国民に伝えるべきです。

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