私はホワイトハウスを長年取材していますが、彼らは「最悪(ダウンサイド)の場合、どうなるか」を常に考えている。そこが日本の官邸と決定的に違います。日本版NSCの国家安全保障会議とアメリカのNSCは、似て非なるものだと思います。アメリカのNSCはインテリジェンス・コミュニティとそれを統轄するDNIという17の組織で、世界とアメリカ国内から機密情報を集めて来て、それを集約して戦略を立てるのです。日本は、アメリカをまねて国家安全保障会議を作ったが、その下にはわずかな人数の官僚がいるだけです。

――安倍首相や小池百合子前代表と面談した軍事アドバイザーのエドワード・ルトワック氏は、アメリカの論理を日本に押しつけようとしているとしか見えません。同氏は文春新書で「自衛隊が特殊部隊として核施設を破壊すれば、日本国民の1億2千万人が守られる」という具体的な提案までしている。

尾形氏:「いま北朝鮮と戦争をやらなければ、それ以上のリスクをICBM級核ミサイルの完成で抱える」というルトワック氏の主張は、「米国」を主語にした米国強硬派の論理であり、その主語を日本に置き換えるのは、私は違うと思います。自衛隊の特殊部隊の作戦についても、どうやって北朝鮮の全ての核施設に関する情報をどこから得るのか。米国も全ては分かっていないと思います。核施設攻撃を言うのは簡単ですが、どう情報を集めて、特殊部隊をどう組織をして、自衛隊が敵地攻撃能力の訓練をしていない部分をどうするのか。幾重にも非現実的な論拠を積み重ねているようしか見えません。オペレーション(作戦)自体が上手くいくということが具体的に説明できていないし、攻撃実行に移すことで、北朝鮮の報復を招いて全面戦争になり、日本や韓国で100万人規模の死者が出るダウンサイドリスクがその論理のなかには存在していると思います。

――先のルトワック氏は「北朝鮮が核を持ったら日本を脅してきて降伏する事態に陥る」「北朝鮮への降伏か先制攻撃か」という選択を迫っていますが。

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北朝鮮の核の放棄は可能なのか…