――言葉の代わりに料理で愛情表現をしたんですね。

 そうですね。料理って愛情の表現であり、同時に人間の心と体を形成するものでもある。息子にはもう身長を抜かれたし、バレー部のキャプテンをやっていて、腕なんか僕の倍ぐらいある。「この筋肉は俺が作ったんだ」なんてしみじみ感動したりして(笑)。

 体を大きくするだけでなく、手間暇かけたおいしい料理を食べさせてあげることで、精神的にも安定します。僕は時短料理はしません。時短は嫌い。だって「簡単に作ってる」と思われちゃうから。一日かけて煮込み料理を作る。しっかり時間をかけて、見せつける(笑)。親が頑張ってる姿を見ることで、子どもは「自分は愛されている」とわかる。これは、愛情表現の鉄則なんです。

――息子さんは好き嫌いはなかったのですか?

 小さいころは苦手な野菜もあったけど、克服させました。作戦は「料理の中に野菜を封じ込める」。みじん切りにしてハンバーグに練りこんだりして、野菜を感じさせないようにするんです。われながら頑張ったなぁと思うのが、全部野菜で作ったハンバーグ。肉、一切無し(笑)。ハンバーグの形にして、上にケチャップがかけたらわからなかったみたいで、「うまい?」と聞いたら「うん。いつもとちょっと味が違うけど」だって。「全部野菜で、お前の嫌いなニンジンも入ってるんだよ」「へぇ。おいしいね」と。今では野菜も好きで何でも食べます。好き嫌いは料理の力で克服できる。何でも食べられるって、幸せなことだと思うんです。

 そして、何を食べているかを知ることも大切。日本では、魚は切り身しか見たことがなくて、丸ごとだと怖いとか気持ち悪いとか言う子もいるみたいだけど、うちは魚も市場で1尾まるごと買ってきます。3枚下ろしも教えました。包丁も持った方がいい。手を切っても、そこで学ぶから。

 お腹には内臓もあって、さばくときには当然それを取り出す。だから、彼は生き物を食べていると理解していると思います。フランスの市場は豚でもカモでも、かなり原型を留めた状態でつるされていて、僕なんか最初ギョッとしたけど、息子はそれを見て「おいしそうだね」(笑)。人間は生き物を殺生し、その命をいただいて生きているわけだから、生と死をきちんと理解することが大事。それがありがたみにつながり、好き嫌いせず残さずに食べるようになると思っています。

 あ、でも息子がちょっと苦手にしている食材があって。卵です。食べられるようにあれこれ研究しました。それがきっかけで、新作『エッグマン』が生まれたのです。

(取材・構成/中津海麻子)