「氷が溶けたBOXの代品を出したら、今度は魚が凍っていて(笑)。『おまえ、なめてんのか!』と料理長から怒りの電話が入りました」

 あれこれ試行錯誤した結果、角のない丸氷があることが判明。縛りやすい薄い袋に丸氷を詰めることで、氷の問題は一件落着した。

 だが、今度は漁師たちから文句が出る。

「ビニール袋にひとつひとつ氷を詰めるのは手間がかかるんです。漁師たちは徹夜の漁で疲労していて、一刻も早く家に帰って眠りたい。でも『鮮魚BOX』を始めてからは、漁のあとも、BOXの箱詰めをいちいち手作業でやらなければなりません。おまけに手分けしてクレームの対応にもあたらなければならない。ほかの船団の漁師たちはみんな漁協にまかせて家に帰っているのに、なぜ自分たちだけがこんな面倒くさい仕事をやらなきゃいけないのか、と不満がつのっていきました」

 そしてとうとうある日、漁師たちの不満が爆発。2船団の漁師40人が萩大島船団丸を脱退してしまった。

 これは仕方のないことだったと坪内さんは言う。

 ここで心折れては、せっかく始めた『鮮魚BOX』のビジネスが行き詰まってしまう。漁協や仲買を通さず、漁師たち自身が販売する『鮮魚BOX』は、旧態然とした日本の水産業を変える大きな可能性を持っているのだから。

 不安げな表情で見つめる残った漁師たちに、坪内さんは声を張り上げて語りかけた。

「今、ここに残っているのは志をひとつにする仲間だけ。だからこそ、私たちで絶対やり遂げられる。歩くから棒に当たる。走るから転ぶ。すりむいて痛いのも、早く走れている証拠よ。私たちが日本の未来を作るんよ」

 その日をさかいに、残った漁師たちの結束が高まった。「鮮魚BOX」のクオリティーもみるみるあがっていったという。

 しかし、坪内さんはまだまだだという。

「これで完成、と思ってしまったら、進歩は止まります。今回温度計を入れたのも、いま私たちが完成品だと思っているものをぶっ壊したいからなんです。温度推移を見て、納得がいかなければひっくり返すつもりです。鮮魚BOXは日本の水産業のしくみを変える第一歩。たえまなく改良を加えていかなければいけないと思います」

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