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「難治がん」の記者 抗がん剤による脱毛の悩みはどれほどか。かつらを被って近所を歩いて考えた

連載「書かずに死ねるか――「難治がん」と闘う記者」

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野上祐(のがみ・ゆう)/1972年生まれ。96年に朝日新聞に入り、仙台支局、沼津支局、名古屋社会部を経て政治部に。福島総局で次長(デスク)として働いていた昨年1月、がんの疑いを指摘され、手術。現在は抗がん剤治療を受けるなど、闘病中

野上祐(のがみ・ゆう)/1972年生まれ。96年に朝日新聞に入り、仙台支局、沼津支局、名古屋社会部を経て政治部に。福島総局で次長(デスク)として働いていた昨年1月、がんの疑いを指摘され、手術。現在は抗がん剤治療を受けるなど、闘病中

「政治評論家風」とスタッフが呼んでいたかつら。人毛を使った26万円の高級品。筑紫哲也さんのイメージ

「政治評論家風」とスタッフが呼んでいたかつら。人毛を使った26万円の高級品。筑紫哲也さんのイメージ

今回のコラムに登場するかつら。近所の高層ビルのトイレで1枚

今回のコラムに登場するかつら。近所の高層ビルのトイレで1枚

 働き盛りの45歳男性。がんの疑いを指摘された朝日新聞記者の野上祐さんは、手術後、厳しい結果を医師から告げられる。抗がん剤治療を受けながら闘病中。

【「政治評論家風」も? 野上さんが実際に試したウイッグはこちら】

*  *  *
 自宅の玄関で鏡に向かい、きちんとかぶれているかを確かめた。ドアを開けると、拍子抜けするほど風はなく、おだやかな日差しが降り注いでいた。自宅から「半径500メートルの政治記事」を書こうと、前回歩いたのは7カ月前、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した日のこと。第2弾となる今回はかつらをテーマにした。

 抗がん剤の副作用による脱毛などに悩む患者が、医療用ウイッグや帽子などで見た目を整えることをアピアランス・ケアという。国会では、6月6日の参院厚生労働委員会で公明党の山本香苗氏が「がん患者が治療しながらこれまで通りの日常生活を送るために仕事を続けていく上で大変重要」と指摘したテーマだ。

 原発事故で都内に避難している福島県南相馬市のある男性は大腸がん。先月会ったとき、「『外に出るときは帽子を忘れないで』と女房が家に何カ所も張り紙をしている」と漏らしていた。

 さて、歩き出すには準備がいる。ベッドで横になりながら国会と地方議会のめぼしい議事録を検索し、乳がんで医療用ウイッグを1年半ほどつけていた国会議員秘書の女性(56)に体験談を聞きに行った。ネットで取り寄せた「お試し無料」のかつらはボリュームがありすぎるが仕方ない。もともと、買ったら自分用にカットするように作られているのだ。

 近所で知り合いに出くわすと面倒くさい。ただでさえ体調を尋ねられる機会が多いのに、かつらのことまで話している時間はない。

 知り合いに見つからないように歩いてゆくと、むかし1年ちょっと通った小学校の校庭で子どもたちが遊んでいる。校門には笑顔の子どもたちと「なかよし」の文字が描かれたポスターがある。

 女性秘書はウイッグをつけてからも、知り合いに会わないよう、クラス会に一切出なかったそうだ。病気で髪が抜けた子どもがからかわれたり、いじめられたりしないために、「抜ける前の長い髪を病気の子どもたちのために寄付しておけばよかった」と悔やんでいた。

 その先にある高層ビルの階段付近は、このあたりで一番の「強風スポット」だ。ビル風でコンタクトレンズを吹き飛ばされたと配偶者がこぼしていたのもここだ。

 抗がん剤の副作用による歩きにくさは前よりましになったが、念のため、片手を階段の手すりに添えることにする。いつ風に吹かれるかわからないから、もう片方のノートを持った手で頭を押さえた。手にしていたのが重い荷物だったら、無理だった。ビルの大きな窓ガラスに近寄り、かつらがずれていないか確かめた。

 さすがに駅前は人通りが多い。今年の都議選と衆院選では、候補者らがマイクを握る姿をよく見かけたものだ。


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