「ジャーナリズムとは報じられたくない事を報じることだ。それ以外のものは広報に過ぎない」という作家のジョージ・オーウェルの言葉をかみしめながら、改めて使命感を感じたのだろう。

 ミュンヘンでのミーティングから6ヶ月が経ち、ワシントンの11月5日午後1時(日本で6日朝)に報道解禁となった。一気にオーストラリアから日本、インドネシアやインド、リビア、トルコ、ヨーロッパやカナダ、ブラジルやコロンビアまで記事の波が世界中を巻き込んだ。

「パラダイス文書」の大部分は大手企業の税務戦略を記述する資料だ。

 アップル、ナイキ、製薬会社など世界的な大企業がタックスヘイブンで作った会社に利益を移し、積極的に税金を低くしたとみられる。そのような税務戦略は基本的に適法だ。

 ただし、ICIJや連合の記者がインタビューした専門家によると、タックスヘイブンを使う多くの企業と著名人は税金の抜け穴を巧みに探し出す恐れもある。つまり、本来、免じられた税は病院や学校の建造などのために使われるはずだが、そうならずに富裕層のポケットに入ることが疑問視されている。その結果不当競争と所得配分の不平等が激しくなっていると指摘されている。

 去年は「パナマ文書」の第一波の報道後、少なくとも6000人以上捜査され、世界中で1億千万ドル の税を回収できたそうだ。

 今回の影響はまだ評価できないが、すでにインドやインドネシア、スペイン、オーストラリアなどの税務当局が文書に記されている人物と企業に対しての捜査予定を発表した。

 日本では共同通信、朝日新聞とNHKの調査報道部は「パラダイス文書」の日本チームとしてデータベースにアクセスを持っている。そこからみずほ銀行から約6億円をだまし取ったとして起訴され公判中の西田信義被告(71)の名前も発掘された。

 また、ジャカルタの会議で記者がまいていたネタの種も咲いた。

 英領バミューダ諸島に登記された医療機器メーカーから、日本、米国、シンガポール、ドイツ、インドネシア、インド、ブラジルの医師14人や病院が「ストックオプション(新株予約権)や未公開株を取得したことを示す資料がパラダイス文書から見つかり、仙台市の医師が上場後に1億円超の売却益を得ていたほか、医師が勤めていた病院も売却益を得ていたことなどを朝日新聞が報じた。

 朝日新聞は、インドのICIJパートナー「ザ・インディアン・エクスプレス」の協力のおかげでインド人の医師からもコメントを得られ、より深い報道ができた。

 数カ月以内にICIJは「パラダイス文書」に入っているすべての名前(企業と個人)をリリースする予定だ。報道は終わりではない。(ジャーナリスト/シッラ・アレッチ)