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昨年の2月、多数のメディアが「司馬遼太郎没後20年」を報じた。「関ヶ原」が映画化され、催事「没後20年司馬遼太郎展『21世紀“未来の街角”で』」が昨年に引き続き今年も各地で展開されるなど、没後20年経った今も人気と知名度は衰えていない。
そんな報道の中でひときわ興味を引いたのは、「司馬遼太郎書籍累計発行部数ランキング」だ。
版元各社(文藝春秋、朝日新聞出版、新潮社、講談社)の累計では1位が「竜馬がゆく」で2477万部、2位が「坂の上の雲」で1967万部、3位が「街道をゆく」で1191万部。上位20作品を合計すると1億3453万部というとてつもない数字になる。
大河ドラマ15作目の原作は、そんな司馬遼太郎の「花神」だった。
主人公は幕末維新ものの表舞台には殆んど現れることがない大村益次郎(村田蔵六)だから低視聴率に喘いだ本作だが、作品的な評価は高かった。例えば「大河ドラマとともに大人になった」というタレントの松村邦洋は、「大人になってあらためて見返した名作が『花神』。山口中心の幕末を篠田三郎さんの吉田松蔭に始まり、中村雅俊さんの高杉晋作につながって、最後は中村梅之助さんの大村益次郎で終わる。この3人が主役なんですよ。明治維新というものを野球で言う先発、中継ぎ、抑えという分業でやり遂げたっていうね。主役が途中で代わっていくというのは、なかなかないパターンで、すばらしかったですね」
“花神”とは中国で言う“花咲爺”のことで、幕末期に彗星のごとく現れて明治維新という花を咲かせた天才戦略家・大村益次郎を指している。彼を主人公にした短篇「鬼謀の人」のラストで、司馬は大村についてこう記している。
「歴史が彼を必要としたとき忽然と現れ、その使命が終わると大急ぎで去った。神秘的でさえある」。
その時代背景については、「時代の変革期には思想家、行動家、最後を仕上げる技術者と3段階に連なる系譜がある」と表現しているが、それを本作に当てはめると、思想家は松陰吉田、行動家は高杉晋作、そして、技術者は大村益次郎ということになる。