■バブルの再来で壮大なバラマキが始まる

 与党大勝の予想を受けて選挙終盤から始まった株高には、バブル再来ではないかという声も聞こえる。「バブル」というのは、いつかはじけるという前提の言葉だが、下がれば日銀が買い支えるということが公然の約束になっている市場では、むしろ買わない方がリスクだという様相を呈している。

 さらに、与党大勝を受けて黒田東彦日本銀行総裁の再任が確実となった今、円安誘導政策と株高演出政策は継続すると市場は予想する。当面はバブル崩壊のことは忘れて買うしかないという状況だ。

 ここまで上がれば、「景気のいい」話があちこちで聞かれるようになるだろう。「デパートなどで宝飾品や高級腕時計、絵画などが売れている」、「高級外車の販売が好調」、「豪華客船クルーズが売れる」、「リゾート会員権の相場が上がる」などという映像がテレビに流されれば、否応なく「好況感」は高まる。

 そんな中、直接株高などの恩恵にあずかれない若者たちも、人手不足でアルバイト賃金が上がり、就職でも正社員採用が増えるなど、確実に経済は良くなっているという感覚がさらに強まることになる。その結果、「安倍さんのおかげだ」という意識は否応なく高まるわけだ。

 ただし、安倍政権にとって死角がないわけではない。それは、「格差問題」である。安倍政権は発足当初、「富裕層や大企業が豊かになれば、そのうち、庶民一般にもその恩恵は滴り落ちてくる」という「トリクルダウン理論」を掲げて、「もう少し待ってください」と言っていたが、それから5年近く経っても、そんなことは起きなかった。いまだに来年には賃金が本格的に上がるなどと言っているブレインもいるが、庶民はそんなに気長ではない。

 また、シルバー民主主義という言葉のとおり、高齢者向けの手厚い社会福祉政策に比べて、若者向けの政策、特に子育て教育への支出が明らかに不足していることへの批判は非常に高まっている。おそらく、選挙で躍進した立憲民主党の枝野幸男代表は、格差問題への批判を経済面での論争における最大の武器として使ってくるだろう。

 安倍総理の脳裏には、「保育園落ちた日本死ね!」というツイートを引用しながら自分を国会で責め立てた山尾志桜里衆議院議員の姿がはっきりと記憶に残っているはずだ。

 安倍第三次内閣の発足にあたっての記者会見では、生産性革命・人づくり革命などとうたったが、その目玉は、消費税増税分のうち借金返済に充てるはずだった2兆円程度を使った3~5歳児の教育完全無償化を含むバラマキ政策である。低所得層に限ってではあるが、0~2歳児の子育て費用や大学などの高等教育の授業料無償化なども含まれる。これらの予算は、10~30代の若者層を強く意識した強烈なアピールである。野党が同じようなことを言っても、与党はそれをパクって実際に政策で実現して見せるというやり方で、逆に有権者の支持を獲得すればよいと割り切ってやっているように見える。

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