さらに、今はまだそれほど経済は良くないが、安倍政権が日本を復活させてくれるはずだという期待もかなり空虚なものだということに若者は気づいていない。

 将来を占うには日本でのビジネス環境がどれくらい向上しているかが一つのカギだが、世界ビジネス環境ランキング(世界銀行)では、安倍政権になってから順位が下がっており、つい最近発表された世界ビジネス環境ランキング2018でも世界34位で、アジアのシンガポール(2位)、韓国(4位)、香港(5位)、台湾(15位)、タイ(26位)などの後塵を拝している。すぐ後ろの35位にはロシアが迫っているという状況だ。とりわけ、その中の評価項目「起業のしやすさ」では106位だから、前途は暗いとしか言いようがない。

 また、将来の競争力の決定要因として重要な高等教育でも日本は順位をどんどん落としている。これも10月23日の本コラムで紹介したが、日本の大学のレベルは下がる一方で、世界での競争はほとんど無理。アジアで見ても、東大がやっと7位(世界では39位から46位にダウン)という状況だ。東大の上には、シンガポール、中国、香港の大学が並ぶが、アジア20位以内に日本は東大、京大(世界では74位)の2校だけ。世界で見ると、東大、京大を除けば200位以内には1校もないという惨状にまで落ち込んでしまった。

 日本の若者たちが、「安倍さんが総理になって経済が良くなった。これからにも期待が持てる」と考えているとしたら、とんだ錯覚なのである。

 それにしても、日銀の円のバラマキ(円安誘導)と政府の予算のバラマキという二つのバラマキ作戦は、若者をはじめとする有権者の支持を得るという目的から見れば、非常にうまく機能している。

 このまま、2年程度この「夢」を与え続ければ、憲法改正も夢ではないだろう。その時期は、19年夏の参議院選挙と同時の国民投票になるのではないか。その頃は、19年10月の消費税増税を前にした駆け込み需要で、ちょうど14年4月の消費税引き上げ前のような景気の盛り上がりになっているはずだ。元々、10月という中途半端な時期に増税をセットしたのは参議院対策のためだったが、それを憲法改正にも使おうというのである。

  一方で 参院選と国民投票の同時実施のために同年10月の消費税増税を延期するという話もあるが、筆者は、その可能性は低いと見ている。

 その理由はいくつかあるが、例えば、増税を延期するなら、予算編成のために18年12月には決定しなければならなくなり、14年に解散総選挙で信を問うとしたこととの整合性をとるためにはその時点で解散総選挙ということになってしまうこと、また、再々延期は、増税に経済が耐えられないということになり、アベノミクスの失敗を印象付けてしまうことなどが挙げられる。

 ともあれ、その時までの約1年半、安倍政権のバラマキはエスカレートする。日本の若者、そして有権者は騙され続けるのだろうか。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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