格差問題への対応はそれだけにとどまらない。大企業と中小企業との格差についても対策が必要だ。今年度の補正予算では、中小企業向けにも大々的な補助金バラマキが行わることになるだろう。

 大都市と地方の格差問題への目配りも欠かせない。TPPからアメリカが脱退してその発効がとん挫し、一息ついている農業関係者だが、彼らに対しても、EUとの経済連携協定対策と称したバラマキ予算が準備されている。

 さらに、公共事業のバラマキもエスカレートしそうだ。先の衆院選自民党の選挙公約「総合政策集2017 J--ファイル」には、「地下シェルターの整備」という項目があった。これは公共事業バラマキの権化と言っても良い二階俊博幹事長肝いりのプロジェクトで、全国津々浦々、あらゆるところにミサイルと核爆撃から国民を守るために「防空壕」のようなものを作るというものだ。全国でこんなことを始めたらいくらお金があっても足りないが、二階氏は、「財政がどうだこうだと言っている時ではない。普通の予算や普通の年次計画などではなく、頭をフル回転して対応しなければいけない」と述べている。

 安倍政権のバラマキは全方位で万遍なく実施されるだろう。上述の公約集「J-ファイル」には実に473項目もの政策が並んでいるが、その大半は、補助金などのバラマキにつなげるための政策の羅列である。それは、国民生活を良くするためなどと言うことではなく、バラマキで安倍政権への好感度を上げ、憲法改正の国民投票の際に、「安倍さんが言うんだから賛成しよう」と考えてもらうためだ(もちろん、官僚と族議員にとっては、天下りを含めた「利権拡大のための要求書」でもある)。

■日本の一人当たりGDPは22位、騙される若者たち
 
 人生で初めて景気が良くなったという若者たちは、本気で「安倍さんが経済を変えてくれた」「民主党政権の時は暗かった」と思っているようだ。彼らにとって、「日本が輝いていた時代」は歴史上のことであって、彼らの時代になって、安倍総理が初めて日本を輝かせてくれているという錯覚があるのだろう。

 安倍総理は、そうした錯覚を非常にうまく利用しているわけだ。しかし、国際的にみると日本の若者の賃金は大幅に下がっている。例えば、第二次安倍政権誕生前は1ドル80円だったが、今は円安政策で1ドル114円だ。一時は120円超まで下がっていた。これを国際的にみると、安倍政権前は、時給800円が10ドル。今は、同じ時給800円なら1ドル114円換算で約7ドル。3割もカットされたことになる。日本の若者の賃金は、アメリカに比べて非常に低いということになる。これなら日本の大企業は国際競争でかなり楽になり、空前の利益を上げることができる。

 自民党は、そのうち最低賃金1000円にすると言っているが、一番高い東京でも現在の最低賃金は、今年10月に26円という大幅引き上げを行った後で958円。たったの8.4ドルである。一方、アメリカで今一番勢いのあるサンフランシスコ市の最低賃金は、14ドル。東京の1.66倍。来年は15ドルになる予定だから、仮に東京が来年、今年以上の引き上げで例えば30円上がったとしても988円で8.7ドル。サンフランシスコは東京の1.73倍とさらに格差は開く。このペースでいけば、日本の最低賃金がアメリカの半分になる日もそう遠くはないだろう。

 10月23日の本コラムでも紹介したが、国民生活の豊かさを表す指標でもある一人当たりGDP見ると、日本の凋落ぶりはさらにはっきりする。日本は、90年代に一貫して世界ランク一桁を維持し、最高では2000年に世界2位まで上昇したことがあるが、今は22位(2016年)まで落ちた。アメリカは90年代には、10位以内に入っていたものの概ね日本より下位にあった。2016年は8位と当時の順位を維持している。

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