――昨年から今年にかけて、南さんには試練が続いた。まず昨年2月、たまたま受けた人間ドックで右胸に6ミリの悪性腫瘍が見つかりステージ1と診断され、病巣を乳房温存手術で取り除いた。手術は無事に済んだが、その後の投薬や抗がん剤での治療で体の不調が続いた。

 そして、ようやく1年になろうかというころ、今度は週刊誌に夫である渡辺謙さんの不倫が報じられたのだ。南さんはどん底まで打ちのめされたという。

南さん:そのときの気持ちをなんといえばよいか……。一言でいうと、人が信じられなくなった、それに尽きると思います。自分が立っていた地面が突然地割れして崩れてなくなったような感じ、とでもいったらいいでしょうか。どこに立てばいいのか、どこに行けばいいのか、もう本当にわからなくなってしまった。居場所がなくなった感じでした。

 乳がんのときも、心身ともに大きなダメージを受けましたが、それでもそのときは「体が治ればもう一度頑張れるんだ」と思えました。でも、こちらの精神的ダメージを受けた後の状態はそれよりもはるかにつらく、一時は完全に思考回路も感情も止まってしまいました。言葉を発することができなくて、喜怒哀楽もない。もちろん笑顔もなくなり、涙さえも出ませんでした。これまでの人生で、一番の試練のときだったと思います。

「定年女子」の2カ月間の撮影も、とてもやり遂げられる自信がなかったので、悩みに悩んだ末、一度は出演をお断りしました。ところが、脚本家の田渕久美子先生やスタッフの方が、熱心に説得してくださって……。ある日、プロデューサーの方もメールをくださって、その熱い思いに触れたら心が初めて溶けました。それまでは喜怒哀楽がなくなっている状態だったのですが、そのときに騒動以来、初めて涙が出ました。

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