勉強ばかりしてきた人は左脳が発達する傾向にあります。右利きの人も多いですから(私たちの脳は聞き手と反対側が発達しています)、どうしても「右脳の頭頂部」は、鍛えられにくい場所です。普段は困らないのですが、若い人とコミュニケーションを取らなければならなくなった時に、非言語コミュニケーションの弱さが露呈してしまうのです。部下の立場から見ると、上司の言っていることが「訳がわからない」ように映るのは、上司自身が部下の表現していることがわかっていないからなのですね。

 また、寡黙な人を相手にした時には、相手の少ない発言の中から、その意図をくみ取らなければなりません。コミュニケーションがうまいか、下手かというのは、話さない相手と対峙した時にわかります。少ない発言の中から、相手の意図をすくいとることができるようになるためには、やはり訓練が必要なのです。

●話せるのにコミュ障なのはなぜか?

 相談に来る“コミュ障”と呼ばれる人たちの脳をMRI画像で見てみると、意外なことに、人と話をするために必要な「伝達する場所」が強いことが多いのです。要は「話せるのに、コミュ障」ということ。なぜなのでしょうか?

 それは、話す内容は頭の中にあるのに「タイミングがわからない」からです。言いたいことが言えないのは、言いたいことがないのではなく、それを発するタイミングがわからないから。スピーチや部下への連絡など、一方的に話すことはできても、相手の顔を見て、どんなタイミングで、どんな話をしたりアドバイスをしたりすればいいのかは、わからない。例えば恋愛でも、目の前の女性に、どのタイミングでどんなことを言えばいいのかがわからないのです。要は、タイミングの問題なのです。

●タイミングをつかむために、本を読んで疑似体験を増やす

 このように話のタイミングがつかめない「コミュ障」の人にとって、小説はまたとない練習教材となります。相手の感情の流れをつかむ練習を、小説を通じて行うのです。感情にフォーカスして本を読むことで、ロールプレイをする機会を多く持つことができます。

 実際に、重度のコミュニケーション障害にある人というのは、小説を読むことができません。なぜなら、そこに流れている感情を読み取ることができないからです。そういった意味において、小説を読むことができれば、ある程度人の感情が読み取れているということになります。

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