世界的研究者・坂口志文さんが発見した「制御性T細胞」は、免疫学の教科書を書き換えるほどインパクトをもたらした。週刊朝日ムック『医学部に入る 2018』では、将来、医学部を志望する中高生たちに向けて、坂口さんが自身の「ターニング・ポイント」を語っている。なぜ、研究者の道を選んだのか。
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医師になったけれど、自分の将来をどう描けばいいのかわからない。研究者の道を選んだころ、坂口志文さんはそんな心持ちだった。
大学での講義を通じて内科や精神科に興味を抱き、臨床医になることも考えた。当時は医学部からそのまま大学病院へ進むのが常だったが、坂口さんは卒業を控え、考えあぐねていた。
「自分があまり臨床医に向いていると思えなかったんですね。考えた末、大学院に進んで勉強しながら、のめり込んでみたいと思えるものを探すことにしました」
■免疫学の研究を深めるために大学院を1年半で中退
病気のメカニズムを考えるのが好きだったため、大学院では病理学教室に入った。病理解剖にはあまり関心が持てなかったが、せっかく始めた以上、治療に役立つ研究で貢献したい。坂口さんはそう考え、興味があった免疫学の研究を深めるため、大学院を1年半で中退して別の研究施設に移った。
「もし、研究者として芽が出なければ、田舎で医者をやろう。そんな気持ちで始めて、気づいたら何十年も経っていたという感じです」
坂口さんの研究は、「制御性T細胞」という細胞の発見で知られる。
免疫は、体内の異物を認識して排除する仕組みを持ち、細菌やウイスルによる感染症から体を守るために不可欠なものだ。一方で、その過度な働きは病気の原因ともなる。
制御性T細胞は過剰な免疫反応を抑える機能をもっていて、細胞のコントロールによって、がんやアレルギー、自己免疫疾患など、免疫が関与する病気の治療への道が一気にひらけてくる。坂口さんの研究は、免疫学の教科書を書き換えるほど、インパクトがあった。