では、「叱る」とは? どんなに心の中で「またやったか……」と思っていてもグッとこらえて表に出さず、「もう今度からこぼさないようにしようね」という具合に、怒りを含めずに冷静に助言することです。「一緒に布巾でテーブルを拭こうね」「もっとご飯のほうを見て集中して食べようね」といった、今後の成長を助けるもうひとことが加わっていればなお素晴らしいと思います。

 それならば、子どもを「叱る」でよくないの!? なぜ「注意する」なの? と思われるでしょう。叱るという言葉を考えてみると、妹を叱る、部下を叱る……、つまり自分より立場が下の場合にしか使いませんよね。同等の立場である「友達を叱る」という使用法はあまり耳にしません。私は、自分の子どもとはいえこの言葉を使う権利があまりないような気がするのです。

 よく聞く「友達みたいな親子でありたい」というのとも違います。言葉狩りのように「そういう言い方をするのはやめようよ」と呼びかけたいのでもありません。あくまで私の場合はですが、息子に対し「こいつ、自分より偉いぞ」「人間が出来ている」と感じるところが多々あるのです。

 息子は、お菓子を食べるとき、「ハイ、あげる」と半分割って私にくれる優しさがあります。私が足を机の角にぶつけて痛がっていると、すぐに走ってきて「痛いの痛いの~とんでけ」と慰めてくれます。幼稚園の帰りには、私を喜ばせようとして、頻繁にお土産(セミの死骸やカラスの羽根とかなのでこっそり捨てていますが)を持ってきてくれます。私だったら、お菓子は隠して一人で全部食べるし、息子が痛がっていても、「あーぶつけちゃったね、でも自分でぶつけたから仕方ないね、頑張れ!」で済ますし、お土産なんて気が向いたときにしか買いません。

 あるときなんて、私が「痛いの痛いのおばあちゃんにとんでけ~」と冗談で言ったら、「そんなこと言っちゃダメ! 言っちゃダメ!」と号泣しながら本気で注意されました。おまけに、「ママは朝が嫌いでずっと寝ていたい」という話をしてから、私を起こさずに、そっと一人で起きてリビングに行ってくれるようになったのです(ちなみに私は35歳で息子は3歳です)。手を蚊に刺されて「かゆい」と愚痴って膨らんだ箇所を見せたときも、「大丈夫、すぐ治るよ」と、そっと手を握ってくれました。

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