左利きの名手と言えば、もちろん日本の中村俊輔もワールドクラスのキッカーとして名前が挙げられる。全身を弓の様にしならせる独特のフォームから繰り出されるキックはキレや精度もさることながら、状況に応じて高低、左右のコースを蹴り分ける技術は国際的にも最高レベルにあるだろう。セルティック時代の2006-07シーズンに欧州チャンピオンズリーグのマンチェスター・ユナイテッド戦で決めた2本のFKは未来に語り継がれるべきもので、39歳になった現在もJリーグで輝きを放っている。

 選手としてスペシャルでありすぎるために、FKがフォーカスされにくい名手もいる。元ブラジル代表のロナウジーニョはドリブル、パス、シュートの全てで傑出した存在であり、直接FKもそのひとつ。小さく鋭い振りから放たれるボールは壁やGKなど関係ないかのようにゴールへと吸い込まれた。ただ、ロナウジーニョはあらゆるプレーがワールドクラスであるがゆえに、彼の代名詞がFKとはなりにくい。そのロナウジーニョがバルセロナ在籍時代に記録したクラブのFKゴール記録を更新したリオネル・メッシも、”全知全能”という部分で似たことが言えるかもしれない。

 意外なFKの名手として挙げたいのがローマやベティスなどで活躍したマルコス・アスンソンだ。中盤での攻守のバランスワークに優れ、どちらかと言えば地味な仕事で勝利に貢献するタイプのアスンソンだが、相手陣内で味方がファウルを受ければ、チームの主役に成り変わる。真骨頂は角度のあるFKだ。普通なら間接的にターゲットマンに合わせるワイドな位置からでも、平然と狙いすましたゴールを決めている。

 現在売り出し中の選手では、ハカン・チャルハノールが伝説に名を残せるFKの名手だ。遠目の距離からもゴールを狙えるキックはジュニーニョを彷彿させるもので、球種も豊富。何よりFKへのこだわりが強く、彼がボールをセットすればスタジアム中に期待感が漂う。今季ドイツ・ブンデスリーガのレーバークーゼンからセリエAのACミランに移籍したチャルハノール。復権を目指す名門の得点源として、彼のFKが新たな武器として加わることは間違いない。

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