加齢により避けることができない白内障──。白内障による視力の低下が、認知機能の低下につながるとする研究が近年、進められている。白内障の手術で視力が回復すると認知機能も改善したというデータもある。週刊朝日MOOK「家族で読む予防と備え すべてがわかる認知症2017」では、専門医を取材した。
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白内障とは、加齢などによって眼のレンズである水晶体がにごる病気だ。本来、外から入る光は水晶体によって屈折し、網膜に像を映すが、白内障などによって水晶体がにごると光が正常に屈折されず、網膜に適切な像が映らなくなる。
すぐに失明してしまうなど緊急を要する病気ではないが、視界がぼやけたり、ものが二重に見えたりという症状から始まり、進行すると視力が低下して日常生活に支障をきたすようになる。
白内障の原因のほとんどは加齢で、早いと40代から発症し、年齢が上がるにつれ有病率も上がる。80代では100%、つまり、すべての人にみられる。
視力の低下が、記憶や理解、学習などの認知機能に影響を及ぼす可能性については、近年研究が進められている。視力は、聴力と同様、脳に多くの情報や刺激をもたらし、「脳に送られる情報の80%以上が眼を通して入ってくる」ともいわれる。認知機能の低下に結びつく原因として、視力が低下して眼からの情報が減るために、脳に送られる情報が減少し、その状態が長く続くことで脳の働きが低下することが考えられる。
また、ものが見えにくくなることで、活動量が減ったり、閉じこもりがちになり人とのコミュニケーションが減ったりすることも、認知機能の低下につながる可能性が考えられる。
日本眼科学会理事長で筑波大学教授の大鹿哲郎医師はこう話す。
「光が網膜に届かないことによる影響も考えられます」
健康な状態では、光が網膜に届くことで、脳の下垂体などから分泌されるホルモンがコントロールされ、体内時計が正常に働いている。しかし、水晶体がにごり、網膜に光が当たらないことでホルモンの状態が変化するという。
「それによって睡眠障害や生活リズムの乱れ、意欲の低下などがみられることがあり、認知機能に影響を及ぼす可能性が考えられます」(大鹿医師)
筑波大学では、白内障の手術を受けた55~93歳の88人を対象に、手術前と手術2カ月後に「見えやすさ」と「認知機能」の変化について調査した。「MMSE」は30点満点で、点数が高いほうが正常を示す認知機能テストだ。その結果、手術後の視力改善によりものが見えやすくなり、認知機能の改善、うつ症状の改善、QOL(生活の質)の向上がみられたという結果が得られた。