■視力の悪い人は発症リスク高い

 また、奈良県立医科大学で、3千人の高齢者を対象として実施された大規模疫学調査でも、視力のいい人は悪い人と比較して認知機能が高く保たれており、視力の悪い人はいい人より認知症の発症リスクが高いと報告されている。

 大鹿医師は次のように話す。

「視力の低下により、引きこもりがちになってほとんど寝たきりのような生活をしていた人が、手術をして視力が回復したら元気に歩き始めたケースもあります。また、自分の身なりに関心を持たなくなって、髪もとかさずに診察に来ていた女性の患者さんが、術後はきれいにお化粧して来るようになることもよくあります。『見える』ことは、認知機能だけでなく、人の意識やQOLにも大きな影響を与えるものだと実感しました」

 ただし、筑波大学の調査では、対象者に「すでに認知症を発症している人」は含まれておらず、認知症を発症した後に白内障の手術をしても、認知症が治癒することはないとされている。

「認知機能の低下」と、実際の「認知症の発症」とはイコールではなく、視力の回復により認知症を予防できるかどうかまでは、現状ではわからないが、大鹿医師は「見えないよりは見えたほうが、人の心身の健康にとって良いことは明らか」と話す。

 加齢によって白髪になるのを防げないのと同様に、白内障も予防することはできない。しかし、白内障は手術をすれば治り、視力を回復させることができる病気だ。手術をするタイミングについて、大鹿医師は「本人が不便と感じたとき」という。

「白内障でも、生活に不便を感じなければ急いで手術をしなくてもいいでしょう。ただし、見えにくい、まぶしいなど不便がある場合には早めに手術することをすすめます」(同)

 白内障の手術では、角膜を小さく切開してにごった水晶体を取り除き、水晶体の役割をする眼内レンズを装着する。日帰り手術も可能で、からだへの負担も軽く安全性の高い手術といえる。

 また、白内障以外にも視力が低下し、しかも、早期に治療をしなければ視力の回復が見込めなくなるリスクのある眼の病気もある。認知機能やQOLを維持するためにも、見えにくさや不調を感じたとき、「年だから見えなくても仕方ない」と考えるのではなく、早めに眼科を受診することが大切だ。(取材・文/出村真理子)