看護師不足が深刻化している東京近郊では、今後、団塊世代が高齢化し、医療ニーズが急速に高まります。看護師確保をめぐり、東京近郊の病院間で、さらに熾烈な競争が繰り広げられることになるでしょう。

 看護師不足のツケも、最終的には患者にまわってきます。東京近郊、特に東京の病棟閉鎖の主たる理由は、看護師不足です。病床が閉鎖されれば、住民はまともな医療を受けることができなくなります。

 看護師が不足すると、医療事故も起こりやすくなります。03年に米国の研究者らがJAMA(アメリカ医師会誌)に発表した研究によると、外科や救急病棟では大学卒の看護師が10%増えると、患者の早期死亡率が5%低下していました。日本では患者7人に1人の看護師が配備されていますが、この研究では患者4人に1人の看護師を配備することが推奨されていました。つまり、高学歴の看護師を大勢配置した方が、致死的な医療事故が減るというのです。この研究は欧州でも再現され、14年英国の医学誌ランセットで報告されました。

 日本からの研究はまだありませんが、看護師の質と量が急性期医療の現場では患者の生死に直結することは、世界の医療界でコンセンサスとして受け入れられつつあります。

※『病院は東京から破綻する』から抜粋

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上昌広

上昌広

上昌広(かみ・まさひろ)/1968年生まれ。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所理事長。医師。東京大学医学部卒。虎の門病院や国立がんセンター中央病院で臨床研究に従事。2005年東京大学医科学研究所で探索医療ヒューマンネットワークシステムを主宰。16年から現職。著書に病院は東京から破綻する(朝日新聞出版)など

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