「一手忘れたり、どちらかが少し速くなったりすると思いっきり当たってしまう。お互い当たったときもあって『ゴメン』とも言えず、なんとも言えない感じだった。まったく気が抜けない。実は、お互いしっくりいかなかった場面もあったけど、監督によれば少しかみ合わず、『ヤバい』と思いながら動いているときのほうが表情がリアルらしい。でも、僕らはそんなことを意識する余裕はなくて、無門自身必死の場面であり、僕自身も必死だった。亮平くんとは待ち時間もあまり世間話はしなかったな。僕がワンカット休みのときも、亮平くんだけのカットを撮るなどお互い常に動いていたし、たまに二人とも並んで座っていることがあっても、殺陣のことをずっと考えていたから」

 鈴木を含め共演俳優も錚々(そうそう)たる顔ぶれだ。彼らを率いていかなければならない重圧はかなりのものだと思われるが、意外にも「プレッシャーは感じない」と言う。

「ひとりではなくみんなで作っているものだから。『僕が引っ張っていきたい』とも思わないし、実際、引っ張っていくことはできないしね。僕が休みの日も別のシーンを撮っているので、僕の空気には絶対にならない。監督の空気のなかに入っていくという感覚」

 監督に意見することはなかったのかと問うと「そんなこと言える立場じゃない」と即座に否定した。

「僕は監督が描きたい世界のなかの役者のひとり。求められるものを読み取って、それにどう近づけていくかを考えていた」

(文・安楽由紀子)

※『アエラスタイルマガジン 35号』より抜粋