急逝した西武・森慎二コーチは選手たちに様々なものを残してくれた(c)朝日新聞社
急逝した西武・森慎二コーチは選手たちに様々なものを残してくれた(c)朝日新聞社

 改めて、プロ野球選手とは過酷な職業だ。数日前までともに戦っていた仲間が突然この世から去っても、大観衆の前で勝負の場に身を置き続けなければならない。

 6月30日、2日前に多臓器不全で急逝した西武・森慎二投手コーチの追悼試合が本拠地・メットライフドームで行われた。

 試合前、正捕手の炭谷銀仁朗はチームの気持ちを代弁した。

「どうしてもみんな、頭では切り替えてというか、やらなあかんと思っても、なよっとなりがちです。そういう思いは思いで、試合はしっかり戦うべきだと思います。それが(森)慎二さんのためだと思いますし。チーム全員に言えることですけど、中継ぎ陣にとって慎二さんの存在はホンマに大きかったと思うので、特に想いを持ってやってほしい」

 ブルペンリーダーの牧田和久によれば、試合前、土肥義弘投手コーチからこんな話があったという。

「こういうことになったけど、落ち込んでいてもしょうがない。それは慎二さんの求めていることではないという話がありました。明るくいよう、というわけではないですけど、前向きに考えてと。時間は進んでいるので。ゲームもまだまだたくさんあるので、なんとか一つでもたくさん勝って、それを慎二さんに伝えられたらなって思います。そういうミーティングでした」

 42歳で逝去した森コーチは現役時代、強いストレートを武器に2度の最優秀中継ぎ投手に輝いた。同じく試合終盤の勝負どころを任される牧田にとって、教わったことは多かった。

「自分の考え方としてもそうだと思いますけど、慎二さんはマイナスのことを絶対に言わない。プラスに置き換えて、前向きに。マウンドに上がる上で不安に思うこともあると思いますが、そういうのをプラスに言ってくれる人だった。あとは、いい意味で抜くところは抜くということを教えてくれました。常に100%で抑えようと思っても抑えられるものではないと思うので、気持ちに余裕じゃないですけど、そうすることでピッチングも楽になると思う。そういうのを助言してくれたのは大きかった」

 追悼試合ではオリックスの先発・山岡泰輔の好投もあり、0-3で敗れた。9回裏、1死満塁と同点のチャンスをつくると、レフトスタンドの西武ファンはいつにも増して大きな声でチームの背中を押した。

 それでも、逆転することはできなかった。

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