そのように武器を磨きこむことで成長を計ったのがナダルなら、弱点を強化することで新たなステージに進む道を選んだのが、フェデラーである。

「バックハンドの改善は、ここまでの成功の大きなカギだ」

 マスターズ2大会を制した4月、フェデラーは好調の理由を、かつて『唯一の弱点』と目されたバックハンドの強化に求めた。

 なぜ、上達したのか……? そう秘訣を問う声に対する解答はシンプルにして真理だ。

「昨年の終盤に、たくさん練習した。だから今季がスタートした時点で、自信を持ってプレーできていた」

 その練習の成果は最大のライバルであるナダルとの戦いで何より実感できたと彼は言う。

「ラファとの対戦は、上達を測るうえでの究極のテストだった。彼の強烈なフォアを、僕の弱いサイドであるバックでいかにコントロールできるかが試されるからね」

 ナダルのフォア対フェデラーのバック──共に磨きをかけた技の直接対決は、現時点では3連勝中のフェデラーに軍配が上がっている。しかしフェデラーが休養を取ったクレーシーズンで、ナダルはフォアに一層の磨きをかけ、勝利と自信をその左腕でつかみ取ってきた。

 進化した両雄による、既視感に富みながらも新たな見所を内包する頂上決戦……、そんな甘美な時は、今度もまだ訪れそうだ。(文・内田暁)