ウエディングドレス姿の坂井泉水さん(写真:株式会社ビーイング提供)
ウエディングドレス姿の坂井泉水さん(写真:株式会社ビーイング提供)

 10年前、不慮の事故で若くして亡くなったZARDのヴォーカル・坂井泉水さん。その魅力はファンの間でいまも色あせることはない。ほとんどの映像の制作に携わったビーイング映像部の伊藤孝宏さんが語る、その美しさの秘密とは?

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「ドレス、着てみたいな」

 この坂井泉水さんのリクエストで、2006年、ZARDの42枚目になるシングル曲「ハートに火をつけて」のプロモーション映像の準備がされた。この曲はタイアップのドラマに合わせたウエディングソングだったこともあり、ドレスは真っ白なウエディングドレス、撮影は結婚式場で行われた。場所は恵比寿のロビンズクラブ。チャペルを併設したレストランだ(現在はウエディングを取り扱っていない)。

「坂井さんからの希望がスタッフに伝えられるのは珍しいことでした。みんな張り切って、朝7時から夜の11時近くまで、たっぷりと撮影しました」

 ふり返るのは、ZARDが所属したレコード会社、ビーイング映像部の伊藤氏。ZARDのほとんどの映像の制作に携わり、自身でカメラを回すこともあったZARDの映像担当者だ。

「あとで知ったことですが、この頃すでに坂井さんは体調を崩されていました。長時間撮影を行ったことには、今も責任を感じています。ただ、坂井さんのコンディションは、僕を含めて、スタッフは誰も気づいていなかったはずです。今記憶を手繰り寄せても、元気にふるまう姿しか思い出せませんから。彼女はけっして自分の弱いところを見せない女性でした。撮影の合間の坂井さんはキャストとして参加していた子どもたちと戯れていました。子ども用カードゲームのムシキングの話で盛り上がっていた。彼女はいつも甥っ子さんと遊んでいたそうで、子どもに人気のゲームやアニメに詳しくて。あの撮影が、僕が見た最後の坂井さんです」

 その後すぐ、坂井さんは子宮頸(けい)がんで入院している。

病気のことは、会社で知らされました。でも、僕たちは復帰すると思っていました。時々上司からロケを組む話が来ていたので。その都度準備をしては、坂井さんの体調がよくならずにバラす。そんな1年でした」

 ロケがかなりリアルになったこともある。

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神舘和典

神舘和典

1962年東京生まれ。音楽ライター。ジャズ、ロック、Jポップからクラシックまでクラシックまで膨大な数のアーティストをインタビューしてきた。『新書で入門ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)『25人の偉大なるジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)など著書多数。「文春トークライヴ」(文藝春秋)をはじめ音楽イベントのMCも行う。

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