「今日は楽しかった、ありがとう」

 うれしくて、すごく照れくさくて、たまらなくなって下を向きながら糸井さんと握手をしました。手が触れたとき、頭のなかの霧が晴れていく感覚を今でも覚えています。

 同じような経験をした人は私だけではありません。「うれしかった」「ありがとう」などの感謝の言葉で気持ちが楽になったという不登校経験者は多いです。脚本家・宮本亜門さんやロボットクリエイターの吉藤オリィさんも同じような経験を語っていました。

 誰かに感謝されたり、喜ばれること。それ自体が「ああ、自分がいてよかったんだな」と思える契機になります。

 アドバイスよりも、「今日は楽しかった」と、相手とすごした時間を喜んでくれること、そのほうが、本人の根源に突き刺さるものです。

 糸井さんの「ありがとう」は、偶然だったかもしれませんが、不登校の基本の「き」を抑えた言葉だったと思っています。(不登校新聞編集長・石井志昂)

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石井志昂

石井志昂

石井志昂(いしい・しこう)/1982年、東京都町田市出身。中学校受験を機に学校生活があわなくなり、教員や校則、いじめなどを理由に中学2年生から不登校。同年、フリースクール「東京シューレ」へ入会。19歳からNPO法人全国不登校新聞社が発行する『不登校新聞』のスタッフとなり、2006年から編集長。これまで、不登校の子どもや若者、識者など400人以上に取材してきた

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