主人公の直虎を演じる柴咲コウ (c)朝日新聞社
主人公の直虎を演じる柴咲コウ (c)朝日新聞社

 歴史上まったく無名といっていい“おんな城主”井伊直虎を主人公にした大河ドラマ第56作目「おんな城主 直虎」が、間もなく折り返し点を迎えようとしている。

 今から四百数十年も前、女性でありながら城主として戦国時代を生きた井伊直虎。

 井伊家17代当主の直豪氏の長女・井伊裕子さんは、直虎が大河ドラマのヒロインになるらしいと知ったとき、「まさか」と半信半疑だったという。

徳川家康、織田信長、豊臣秀吉のような歴史的ヒーローならともかく、直虎のような無名の女性が主人公になるなんてとても意外でした。無名の女性が主人公になるので視聴率的にどうかという心配もしました」
  
 しかし最初の不安感はドラマが進行するにつれだんだんと興味深さに変わってきたという。

「城主になったころの直虎は試行錯誤の連続でしたが、難問にぶつかっていくうちに、最近ではどうしたら血を流さずに戦いをさけられるかという視点で物事を判断するようになってきました。そこに人間として、女性としての成長が感じられます」
そんな直虎に育てられた彦根藩祖直政から13代目の子孫に当たるのが幕末の大老井伊直弼で、大河ドラマ第一回作品「花の生涯」の主人公だ。

 裕子さんはいう。

「『花の生涯』は私が生まれる前のことなのでよくわかりませんが、井伊家からふたりも大河ドラマの主人公が出るなんて大変光栄な出来事です。歴史を学んでいくと、直弼は日本が平和を保つために一番いい方法だと信じて開国の道を選んだのだということが分かります。それは私の中では直虎が血を流さずに城や領民・領地を守ろうとしたのと同じ考えだったように思えるのです」

 大河ドラマはその第一作「花の生涯」から来年で55年目を迎える。昨年11月、NHKはその節目に当たる2018年の大河ドラマ「西郷(せご)どん」の製作発表記者会見を行った。

「花の生涯」が放送された1963(昭38)年、アジア初の「オリンピック」を翌年にひかえた日本には、未来に向って前進しようという気運が溢れ、受信契約数が1000万件を突破したテレビ界は黎明期から隆盛期に飛躍しようとしていた。

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植草信和

植草信和

植草信和(うえくさ・のぶかず)/1949年、千葉県市川市生まれ。キネマ旬報社に入社し、1991年に同誌編集長。退社後2006年、映画製作・配給会社「太秦株式会社」設立。現在は非常勤顧問。

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