患者の立場でありがたいのは、患者視点の病院です。政治家や会社経営者など、多くの情報を持つ人が入院するときに私大病院を選択するのは、こうした背景があるからです。私大病院の経営は、診療報酬だけでは足りません。不足分は高額な学費で埋めています。一人の医大生が支払う授業料は6年間で2000万円から5000万円程度です。

 こうした学費を払える経済力のある家庭は一般にはごく一部で、多くは開業医です。このため、私大医学部は金持ちの子弟が多く集う独特の雰囲気があります。

 私大医学部の学生は、卒業後急性期病院で研修を終えると、親の病院やクリニックを継ぐ傾向があります。国立大学を卒業した医師の多くが、若いときは急性期病院、年を取ると慢性期病院で勤務医を続けることとは対照的です。

 その影響もあってか、都内には、急性期病院は多数あるのに、慢性期病院は極度に不足
するという偏った状況が生まれています。東京の大学病院は、地理的な偏在が著しい点においても特殊です。13の医学部のうち、12は23区内にあり、8つ(慈恵医大、慶應大、東京医大、東京女子医大、日本医大、順天堂大、東大、東京医科歯科大)は都心部の新宿区・文京区・港区に集中しています。

 これは埼玉県唯一の医学部(防衛医大を除く)である埼玉医大が入間郡にあること、神奈川県の4つの医学部のうち3つ(東海大、北里大、聖マリアンナ医大)が県庁所在地である横浜市以外にあることとは対照的です。

■東京の東西に大学病院が足りない

 都心部に存在する8つの医学部のうち、東京医科歯科大学を除く7つはその前身も含めると、幕末から大正時代にかけて創設されています。

 一方、残りの5つの大学の分布は、東京北部に帝京大学、日本大学(ともに板橋区)の2つ、南部に昭和大学(品川区)と東邦大学(大田区)の2つ、西部に杏林大学(三鷹市)です。5つの大学病院は、1935年の日本大学附属板橋病院設立から71年帝京大学医学部創立までの昭和時代に設立されています。

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