東京都内の医師数分布。矢野厚(東京大学)作成。都内の大部分で人口あたりの医師数は不足している
東京都内の医師数分布。矢野厚(東京大学)作成。都内の大部分で人口あたりの医師数は不足している

 2020年の東京五輪を控え、首都圏は活気に溢れている。そんな状況下で医療が崩壊の危機に瀕している。首都圏には医師が足りず、病院も足りない。その限界は目に見える形で明らかになりつつある――。現役の医師であり、東京大学医科学研究所を経て医療ガバナンス研究所を主宰する上昌広氏が、著書『病院は東京から破綻する』で迫りくる医療崩壊を警告している。

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 東京都の医療機関は極度に偏在しています。

 図を見ると、東京の医師の多くが中心部に集中していることがわかります。江戸川区や足立区などの東部、多摩地区など西部の医師数は少なく、近東のトルコの平均くらいです。

 これは、埼玉県や千葉県などの東京に隣接する他県の人たちにとっては大きな問題で、東京の医療機関を受診しようとすれば、東京の中心部まで通わなければなりません。一時的な入院ならまだしも、慢性疾患や要介護状態の患者が継続的に通うのは困難です。

 東京都の医師が偏在しているのは、大病院が偏在しているためです。
東京都内に存在する大学病院、ナショナルセンター、都立病院は驚くほど、中心部に偏在し、特に山手線周辺に固まっています。

 この分布は、東京の歴史と密接に関係しています。私は東京の近代化を反映していると考えています。いずれの病院にも得意分野と不得意分野がありますが、それには病院の歴史が密接に関連しています。病院の特色を知ることは、病院選びの際の参考になります。

 まず、大学病院からご説明しましょう。東京都に本部を置く医学部は13あります。この
うち、2つは国立大学(東大と東京医科歯科大)で、残りの11は私立医大です。

 東京の大学病院は、私大病院が多くを占めます。東京についで私大病院が多いのは神奈川県と大阪府ですが、いずれも3つです。東京の高度医療は、私大病院が担っていると言って過言ではありません。私大病院は、国公立大学と比較すると、税金の投入が少額です。補助金の不足を補うには、診療で稼ぐ必要があります。都内の私大病院は患者重視の医療で激しく競争しています。結果、私大病院は、患者を重視した医療を提供するようになります。「研究の東大、臨床の慶應」などと言われるのは、この影響でしょう。

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