「ひとつの企業をレストランと考えると、ビジネスの成果(プロダクツやサービス)は料理、ビッグデータやIoTは素材に例えることができます。データサイエンティストは分析ツールやAIなどの道具を用いて、ビッグデータという素材から料理をつくっていく人というイメージです」(中林氏)

 しかし、データサイエンティストの育成は進んでいない。ビッグデータを分析するために必要な統計学などを修めた大学卒業者は年間4000人と、アメリカの2万5000人に比べかなり限られている。さらに重要なのは、データサイエンティストは単なるビッグデータを分析できるエンジニアではないということだ。分析結果をビジネスに応用するスキルが問われる。こうした人材となると、現在の日本には1000人程度しかいないといわれ、米調査会社ガートナーによると将来的に25万人のデータサイエンティストが不足するという。

 この状況は、料理人を用意せずにレストランを始めるのと同じくらい危険なことだ。中林氏は「データサイエンティストの不足をこのまま放置すれば、日本経済の凋落はますます顕著なものになる」と指摘する。

「バブル期の時価総額上位の企業はほとんど日本が独占していましたが、現在ではトップ30に残っているのはトヨタのみ。高度成長期の成功体験に引きずられ、1990年代から始まったIT化の波に乗ることができず、産業構造の転換が図れなかったためです。そして今ビッグデータというさらに大きな波が来ている。これに再び乗り損なえば、10年後、日本の新卒者にとって日本企業という選択肢はなくなっているかもしれない。それくらいの瀬戸際にあると考えています」(中林氏)

 だが同時に、中林氏は「まだ間に合う」とも語る。

「ビッグデータを活用すれば、全く新たなビジネスモデルを生み出すことができます。例えば、SOMPOホールディングスの場合、現在の中心に据えている保険事業は今後収縮していくのは明らかなので、ウェアラブルを使った健康支援サービスなどを伸ばしていく。今ならば、日本の各企業がこうした転換を少しずつでもできていけば、盛り返すことができるはずです」(中林氏)

 Googleも、Facebookも、Amazonも生み出せなかった日本。今まさに到来しているデジタル化の波を乗りこなし、国際社会で生き残るためにも、データサイエンティストの育成が急がれる。(ライター・小神野真弘)