『13歳、「私」をなくした私~性暴力と生きることのリアル~』(朝日新聞出版)は、生きるために、人間が苦しむ姿が、内面が、驚くほどの潔さでリアルに記録された本だ。著者の山本潤さんは、幼いころ実父から受けた性暴力により、その後何年にもおよぶ闘いを強いられ、生還したサバイバーだ。アルコール依存、強迫症状、男性不信ゆえの愛憎混じる性欲求……。彼女は今、こうしたハードルを乗り越え、顔と実名を出し、告白する。彼女の思いはただ一つ、この世界から性暴力をなくすこと。
少し長くなるが、山本さんが何を伝え、何を変えたかったのか、その一端がわかる文章の一部を紹介する。彼女が想像を絶する苦しみと絶望のふちから再生していく姿は、毎日を懸命に生きる我々にとっても決してひとごとではない。なぜなら、彼女が強いられた闘いは、全ての人間に起こりうることだからだ。
* * *
私は、父親からの性的虐待のサバイバーだ。
私が13歳のとき、父は私に性加害をするようになり、それは母と父が別れるまで7年間続いた。
はじめは自分に何が起こっているのか、わからなかった。13歳の私はそれまで誰とも付き合ったこともなく、父が始めたことが性的なことだということがわからなかった。また、父親という立場の人が性的行為を自分の子どもにするということも、私の頭には全くないことだった。日本社会に暮らす多くの人も、同じように考えているのではないだろうか。
父と離れて性的被害は終わった。しかし、その影響は長く続いた。回復に何十年もの時間がかかることを、その当時の私も母や友人などの身近な人たちも知らなかった。私は、どうして父がしたことがこれほどまでに自分自身を決定的に変え、人生に大きな影響を与えてしまったのか、どうして私は普通の人のように生きられないのか、理解できず、悩み、苦しんだ。
性暴力はとても言いにくく、その影響を語ることも難しい。
思い出したくない出来事が不意によみがえってきて、それを避けようと感情や感覚を鈍らせた結果、自分が生きていると感じられなくなること。
自分には何の力もないという無力感に襲われ続け、他者と適切に交流する能力を失うこと。