宮木靖子医師/東京都出身。2002年杏林大学医学部卒。慶應義塾大学病院、埼玉県立循環器・呼吸器病センター、札幌医科大学助教を経て、葉山ハートセンター心臓血管外科部長(写真/小林茂太)
宮木靖子医師/東京都出身。2002年杏林大学医学部卒。慶應義塾大学病院、埼玉県立循環器・呼吸器病センター、札幌医科大学助教を経て、葉山ハートセンター心臓血管外科部長(写真/小林茂太)
宮木靖子医師(写真/小林茂太)
宮木靖子医師(写真/小林茂太)

 目の前の命を救う。それを自分の命ある限り、続けるだけ――。人気医療ドラマ「ドクターX ~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)に登場する主人公の揺るぎのない信念。これを体現する女性外科医が、現実に存在する。アエラムック『AERA Premium 医者・医学部がわかる』では、男性でも厳しい心臓外科の世界で活躍する宮木靖子医師を取材し、リアル「ドクターX」の実像に迫った

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 手術室に響き渡る声。空気が、ピンと張りつめる。

「心臓外科の宮木です。よろしくお願いします」

 助手の医師2人と、麻酔科医、臨床工学技士、看護師。取材のため入室を許された記者やカメラマンらが固唾(かたず)をのんで見守る中、手術が静かに始まった。

 この日、宮木靖子医師が行うのは、「僧帽弁形成術、および三尖(さんせん)弁形成術の複合手術」。壊れた二つの心臓の弁の機能を1回の手術で修復する。心臓外科手術のなかでも難しく、高い技術を要する手術の一つだ。手術時間は6、7時間を予定していた。

 心臓にある四つの部屋を隔て、血液の逆流を防ぐ役割果たす弁は、加齢や高血圧、動脈硬化などの原因により変形し、硬くなる。機能の低下を起こしたものが、弁膜症という病気だ。放置すると血流の滞りや逆流のため心筋に負荷がかかり、心不全などの重篤な病気の原因となる。

 宮木医師が今回、執刀した患者は、神奈川県に住む60代の女性。自宅近くの病院でたまたま受けた人間ドックで、弁の異常が発見され、葉山ハートセンターを紹介された。弁には問題があるが、ほかに特筆するような持病もない。患者の全身状態をみた宮木医師は、迷わず「形成術」を勧めた。

 弁膜症の手術には、変形した弁を修復する形成術のほかに、弁を切除して人工弁に置き換える置換術がある。一般的に、置換術は形成術に比べて手術の難易度は低いが、血栓(血のかたまり)ができやすいなどのリスクもあり、血液を固まらせない薬を一生飲み続ける必要がある。

「手術の難易度が高くても、形成術のほうが血栓症のリスクが低く、患者さんにとって利点が多い。お元気な方でしたので、できる限りご自身の弁を生かす形で手術をしたいと思いました」

 手術を振り返った宮木医師は、そう笑顔で答える。

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