通常のAVならば男優がなかなかオーガズムに至らない場合はカメラを止め、コンディションを整えてから撮影を再開することが少なくない。それができず、男優が動くことも声をだすことも禁じられたVRの撮影では、出演者同士の阿吽の呼吸が必要になる。早すぎず、遅すぎず、決まったタイミングでオーガズムに達しろと言われたらどうだろう。男性読者ならその難しさをご理解いただけるはずだ。

 事実、撮り直しを連発する男優は珍しくないという。古川さんとともに出演した飛鳥りんさんは「今日は別の撮影でひとつの『絡み』を10回も撮り直ししました」とはにかむ。ベテラン男優でも「VR作品には出たくない」と語る者が数多くいるというが、それも納得できる話だ。

●記者がVRを初体験 そのクオリティは……

 一連の撮影風景を見学し、記者の頭をよぎった疑問は「なぜここまで大変なことをするのか」というものだ。映像にカットが入ったり、女優がカメラから視線を少しそらしたりするだけで、それほど品質が損なわれてしまうものなのか。そんな記者に、監督がVRのヘッドセットを差し出した。

 実は記者はゲーム系VRを視聴したことがあったものの、アダルト作品は初めてだった。今回視聴したのは、見学したばかりの風呂場でのシーン。映像が始まると、その場にいるような感覚に驚いた。視線を動かしても「画面の端」は一向に見えない。人間の通常の視界とほとんど変わらないのだ。だが、より衝撃を受けたのは、ふと視線を下げたときのこと。そこにあったのは裸の下半身。もちろんそれは男優のものだが、あまりに自然な映像に、記者自身が裸になったと錯覚してしまったのだ。

 そして女性たちが入室してくる。正直に告白しよう。記者はあまり女性に免疫がない。古川いおりさんが優しげな微笑みを浮かべながら顔を近づけてきたときには、思わずのけぞって後頭部を壁に打ち付けてしまった。その存在感は、まさに仮想現実である。

 動揺する記者などもちろん意に介さず、行為は進行する。それに対する記者の精神的および肉体的反応がどのようなものであったかは、ここでは割愛させていただきたい。そして、彼女たちは記者の目前でとても公の場では表現できない行為をはじめ、最終的に……。

 アダルトVRが登場し始めた当初、「VRに夢中になる男性が増えて少子化に拍車がかかるのではないか」などという声があった。記者は「所詮は映像作品であり、大げさなのではないか」と思っていたクチだが、実際に体験した今ならば言える。ありえない話ではない。それほどにアダルトVRは衝撃的だった。

 特筆すべきは、思わず作品世界に没入させられてしまう「自然さ」だ。場の雰囲気や女優の細かい表情、行為の一連の流れなどが極めて自然だからこそ成立している映像体験であり、ほんの少しでもほつれがあれば、作品全体が台無しになってしまうだろう。出演者や監督、ひいては音響、照明を含めたスタッフ陣が積み上げている途方もない苦労は、必要不可欠なものであると痛感した。

 とはいえ、アダルトVRが今後成功するかどうかは未知数だ。SODクリエイトの広報担当者によると、ユーザー数の見通しはたっていない。プラットフォームとしてはVRヘッドセット「オキュラス・リフト」を使用したパソコンでの視聴を念頭に置いているが、近年の若い男性はスマートフォンユーザーが多く、パソコンをもっていないことが多いのも懸念材料だ。だが、現場は「すごいものをつくりたい」という活力に満ちている。

 取材当日に同じスタジオで別の撮影を行っていたAV監督・サバス堀中氏はこう語る。

「現状でも、VRの現場ではすごい作品ができつつあるんですけど、もっと高いステージにいけるじゃないかなって思ってます。確かに難易度は高いし、トライ&エラーの連続。ただ、VRの撮影が本格化する少し前にソフトオンデマンドの高橋がなり氏が僕らを前に言ったんです。『失敗を恐れるな。バカになれ。徹底的にやって、どれが正解か見つければいい』。正直、この言葉がなかったら僕らは守りに入っていたかもしれない。アダルト業界は3Dコンテンツに参入して、失敗してる経験がありますからね。AVは夢を提供する仕事。だから妥協しません」

暗中模索。しかし、心は熱く。VRの時代は始まったばかりだ。(ライター・小神野真弘)