今夏、海老蔵は1カ月もの長い夏休みを取った。闘病中の妻、麻央さんのために、という報道もあったが、実情は少し違う。

「もうかなり前から決めてましたね。妻の病気のこととかじゃなく、とにかく家族との時間がまったくないぐらい仕事ばかりやってまして、休みが基本的になかったんです。半日の休みをどう有効活用するかっていう日が何日かある程度でしたので。家族と接する時間が短いから、申し訳ないなという気持ちが強かった。だから、休むことはずいぶん前、去年の早いうちから計画してたんです」

 いまの海老蔵は、定期の歌舞伎公演のスケジュールだけで見ても、場当たり的に休みを取れるような状況にない。歌舞伎以外の仕事も少なくない。たとえば、『石川五右衛門』は、新作歌舞伎として幾度となくやってきた演目だが、同名のテレビドラマを引き受けたことでまた忙しさは増した。

 海老蔵はこう言う。

「ドラマに出るという作業は、僕としては本来は専門ではない仕事なんです。これまでも映画やテレビで時代劇にたまに出てきましたけど。やはり、ここ7、8年、大河ドラマを除けば時代劇の連続ドラマってほとんどなかったでしょ。たとえば、バレエのダンサーが1日レッスンを怠ると、取り返すのに3日間かかるというように、時代劇もやっぱり常に回っていないといけないんです。もし半年間撮影現場がない、となったら衰退が始まるんですよ。床山(かつらを扱う専門家)さんとか衣裳部さんにとってもそれは大変なことなんです。時代劇もひとつの文化で、やっぱり残していかなきゃいけない。日本の伝統文化の歌舞伎に属している僕は、鬘(かつら)、衣裳、小道具その他もろもろ、大衆が使わなくなるものがどんどん衰退していくのを目の当たりにしてきたから。そのためにも、誰かが足を突っ込んで、ちょっと邪魔をしにいかないと、刺激を入れにいかないと、なくなっちゃうんですよ」

 が、「結局やっぱり、歌舞伎が一番面白いな、という結論に至る」。テレビや映画では耐えられないことがひとつある。「待ち」だ。

「歌舞伎は、出て、引っ込んで、出てと、だいたい1時間から2時間です。でも、映画、テレビの場合、1、2時間待って、5分で終わっちゃったりする。喜びは舞台のほうが大きいですよね。映画が楽しいという人もいるし、確かになんらかの甘美な味があるのはわかる。でも、僕は、待つという行動のほうが甘美を超えてしまうんです。時間がもったいなくて」

(文・一志治夫)

※アエラスタイルマガジン33号より抜粋