チリッチ戦に敗れ、1勝2敗での準決勝進出となった錦織圭(写真:Getty Images)
チリッチ戦に敗れ、1勝2敗での準決勝進出となった錦織圭(写真:Getty Images)

 アンディ・マリーがスタン・ワウリンカを破った時、場内には、マリーのみならず錦織圭の準決勝進出が決まったことを告げるアナウンスが流れ、「アンディ、ケイ、おめでとう」の文字が巨大スクリーンに表示された。

 ATPツアーファイナルズ、ラウンドロビン(総当たりリーグ戦)の最終戦――。錦織はマリン・チリッチと戦うその前に、自身の予選リーグ2位突破が確定したことを知った。

「特には考えてなかったですね」

 これから戦う試合の結果を問わず、既にグループの順位付けが決まったことが試合に与えた影響を、錦織は否定した。この大会では1試合に勝つごとに、200点のランキングポイントを得ることができるため、勝利へのモチベーションを見つけることが難しい訳ではなかったと彼は言った。

 だが、実力が拮抗したこのレベルの戦いにおいて、相手の微かな癖を感受して高速サーブのコースを読むには、あるいは全力で走り激しく打ち合う中で最後の一歩を踏み出すには、集中力を研ぎ澄まし自らを奮い立たせるほんの少しの“動機づけ”が、勝敗を決する重大なファクターとなりえる。

 一方のチリッチは、リーグ戦で2連敗を喫し、錦織戦を迎えた時点で既に準決勝進出の望みがないこと知っていた。「最初の2試合で負けるのは辛く、モチベーションを維持するのは難しかった」。チリッチは、素直にそう認めている。だが同時に彼は、錦織戦に勝ち200点のランキングポイントを手にすれば、ランキングを6位に上げられることを知っていた。

「この試合に勝てば6位になれるということを、最終的にはかなり意識していた。僕のそれまでの自己最高位は7位。この試合に更新が懸かっていたことは、大きな意味を持った」

 チリッチには今大会最後の試合に挑む、明確な目標があったのだ。

 それでも試合序盤で高い集中力を発揮し、先に主導権を掌握したのは錦織だった。チリッチのサーブで始まった最初のポイントで、いきなり鋭いリターンからバックの強打につなげてウイナーを奪取。結果的にこのゲームはキープされたが、第3ゲームではチリッチが犯したダブルフォールトの隙を逃さず、ストローク戦を支配してブレークに成功。ファーストサーブの成功率も69%と高く、チリッチにブレークポイントを与えることなく自身のゲームは快調にキープした。このセットはストロークだけで8本のウイナーを奪い、アンフォーストエラー(自ら犯すミス)は僅かに3本。第9ゲームで相手サービスゲームを再びブレークし、第1セットは完璧とも言える内容で錦織が6-3で奪い去った。

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