しかし、この一戦に勝って自己最高ランキングを更新するというモチベーションが、「気持ちを奮い立たせ、流れを変える力を与えてくれた」とチリッチは言う。第2ゲームでサーブを広角に打ち分けエースを立てて続けに奪うと、リズムに乗ってストロークにも勢いが出始めた。

 対する錦織は「1セット目は凄く集中できていたが、2セット目でミスが相次いでしまい、少しメンタル的に攻めていけなくなった」と振り返る。ミスの少なかった第1セットから一転、第2セットは15本のアンフォーストエラーを重ねた錦織が2-6でセットを失った。

 第3セットでの錦織は、嫌な流れをなんとか断ち切るべく、クロスからストレートへの早い展開を増やし、徐々に主導権を取り戻しつつあるように見えた。しかし第5ゲームのサービスゲームで、30-0とリードしたところからふと集中力が途切れたように、3本のミスを連ねて相手にブレークを許す。その後、錦織にブレークのチャンスは訪れることなく、第3セットもチリッチの手に。勝利の瞬間、コーチたちが座るボックスに向き直り、両手を突き上げ喜びを爆発させるチリッチの笑顔が、この試合に懸ける想いの強さを物語っていた。

「シーズンの最終戦で、6位の地位を懸けて戦うのは大変だった。自分を誇りに思う」

 試合後に、チリッチは再び満面の笑みを浮かべた。

 一方の錦織は、「相手も良かったですが、たぶん自分に原因があった。そこはすごく勿体なかったです」と、落胆の色を隠せぬ様子で言う。

 ただ錦織にとって何より重要なのは、既に進出が決まっている準決勝で最高のパフォーマンスを発揮すること。

「1セット目のプレー自体はよかったので、持続してプレーできるかというところ。こうやって敗戦が続くとメンタル的にはすごく難しいですが、なるべく切り替えて明日やりたいと思います」

 頂点へと続くその道中で待ちかまえるのは、グループ戦を3戦全勝で勝ち上がり、1位の座奪還に燃えるノバク・ジョコビッチである。(文・内田暁)