なお、ここまでに名前を挙げた対戦候補者のなかで、錦織が過去に敗戦を喫したのはベッカーとカロビッチ。対ベッカーは2勝1敗、カロビッチは1勝2敗であるが、錦織が急成長を果たした2014年以降に限れば負けなしというのは、心強い数字である。

 ただベスト8まで勝ち進んだとすれば、かなりの可能性で対戦することになるのが、マリーだ。錦織が1勝7敗と大きく負け越している相手であり、先のリオ五輪で対戦した際にも「しょんぼり」するほどに圧倒された、現テニス界の“2強”の一人だ。

 五輪で錦織を破り勝ち進んだマリーは、決勝も制して金メダルに輝くと、翌週のシンシナティ・マスターズでも決勝まで進出。さすがに決勝ではマリン・チリッチに敗れたが、金メダルを懸けた死闘の翌日にはリオから北米へと移動し、その後すぐに5試合を戦い抜いたのだ。錦織も「あれだけ疲れていても決勝まで行けるというのが、“怪物”的な体力を持っている……」と、同世代のライバルであるチリッチの優勝以上に、マリーのスタミナに衝撃を受けていた。

 もっともそのマリー、実はマスターズの初戦を終えた時点で、肩に痛みを覚えて棄権も考えたという。だが、トレーナーや医師の「酷使による炎症で、靭帯や骨には異常はない」との診断を聞いた時、「この大会が終わればしばらく休める。ならば行けるところまで行こう」と決断したことを後に明かした。これまではジョコビッチやロジャー・フェデラー、ラファエル・ナダルらに次ぐ“第3、第4の男”の地位に長く甘んじてきたマリーの頂点への執念は、悲願のグランドスラム優勝を目指す錦織の前に立ちはだかる、最大の障壁かもしれない。

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