そのように、現在ジョコビッチと双璧を成すマリーだが、1年前の全米では4回戦で敗れているのだから、これも勝ち上がり予想の困難さを示す証左。昨年そのマリーから殊勲の星を奪ったのが、203cmのビッグサーバー、ケビン・アンダーソンであり、そのアンダーソンと今大会の初戦で当たるのが、「テニス界の牛若丸」とも称される、西岡良仁である。170cmと小柄な西岡の武器は、高い打点をも苦にしないリターンと、スピードを生かしたコートカバー能力。「じゃんけんで負けるのも嫌」というほどの負けん気と分析力が、アンダーソンの時速220kmを超えるサーブやパワーをいかに攻略するかがみどころだ。

 女子では、今大会初めてグランドスラムのシード選手となった土居美咲に期待が集まる。第30シードの地位は、3回戦まではシード選手と当たらないことを約束される権利。その3回戦で当たる可能性が高いのが、昨年準優勝のロベルタ・ビンチだ。土居が目標に掲げる「大会2週目まで残る」……つまりは4回戦以上に勝ち進むためにも、大物狩りを果たし、さらなる上位進出を狙いたいところだ。

 膝のケガのためウィンブルドンを欠場した18歳の大坂なおみも、今大会の注目選手だ。この初夏は、クレーと芝という、ほとんど経験したことのなかったコートサーフェスでの慣れぬ戦いでケガを重ねたが、北米のハードコートは彼女のホーム。しかも全米オープン会場のナショナルテニスセンターは、彼女が5歳の頃に初めてテニスボールを打った、始まりの地でもある。初戦の相手は、第28シードでビッグサーバーのココ・バンダウェイ。迫力ある打ち合いが展開されるだろう。

 そのほか、日比野菜緒はクリスティナ・ムラデノビッチ、奈良くるみはシュテファニー・フェーゲレと、いずれも初戦はノーシードと対戦する。ムラデノビッチは昨年ベスト8に入った実力者だが、最近は調子を落とし気味。日比野はこの機に、グランドスラム初勝利を手にしたいところだ。

 一方奈良は、グランドスラムでの初戦負けは2度しかないという優れた調整力の持ち主。今回も前週の大会はスキップして、全米に照準を合わせてきた。良い状態で北米シリーズを戦ってきただけに、久々の3回戦進出に期待がかかる。(文・内田暁)