仕事の開始は朝6時から。整備を担当するのは、工場長の白石さんを含め総勢6名。黙々とそれぞれの作業にいそしんでいるものの、築地市場内の朝に広く感じるピリッとした雰囲気はなく、穏やかな空気を感じた。1日に整備するターレの台数は、20~30台ほど。「サイドブレーキ、よろしいでしょうか(サイドブレーキの不具合を見ていただけますか?)」といった具合に、ターレが持ち込まれ続ける。

 朝6時の業務開始から8時ごろにかけては、場内をターレがフル稼働で走りまわっている時間帯のため、忙しいなかあえて車両を持ち込むということは少ない。電装系の故障など、走行できないような重症のトラブル車両の対応と、サイドブレーキ調整のような、その場ですぐに対応できる簡単な処置がなされる。

 8時頃になると、大卸(仲卸各店舗などへ魚を卸す業務)各社でのセリと取引がひと通り終わるため、大卸の車両が修理に入り始める。このころはまだ、仲卸で使われている車両は依然稼働中だ。

 その後、仕事の終わった仲卸の車両が、午後1時ごろまでにかけて、順次修理に入る。仲卸の業務は店舗により大きく異なるため、修理に入る時間にはばらつきがある。このように、榊オートにおける仕事の1日の流れは、場内における仕事の流れとリンクしている。

 整備台帳をのぞくと、「B△」と書かれた行が続く。ほかには、サイドブレーキやハンドル部の不具合など。Bはブレーキを、△は修理を意味する。ブレーキまわりをはじめ、後輪部分の整備が多い。ターレは1輪のみの前輪駆動で、ブレーキは2つある後輪にかかるようになっている。「B△」の整備は、ターレごとフォークリフトで持ち上げて行われていた。

 目の高さまでフォークリフトで持ち上げられたターレの裏側を見て、ブレーキをはじめとした後輪まわりの可動部分の整備が大半を占める理由を、私はすぐに理解した。どのターレを見ても、フレームも、ブレーキを動かすアーム部も、後輪のホイールも、さびですっかり茶色く変色している。さびているだけでなく腐食が進み、カキの貝殻のような状態なっているものも少なくなかった。

 築地市場では、活魚の入った水槽以外でも、魚を洗ったり床を洗ったりする際などに海水を使う。海水にぬれた路面を日々行き来することで、ターレの底面はあっという間に腐食が進んでしまう。分解し、さびを落とし、絡んだビニールやごみを取り除き、油脂を塗布して再び組み上げるというのが全体の流れなのだが、おそらく一般的な車両整備と比べれば、さびを落とすことに多くの時間を要しているように、私には見えた。

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