このエピソードはその後、雑誌で山下さん自らが紹介したことで広く知られるようになった。「返し神社」というのも、山下さんが雑誌の中でそう語ったことから、呼ばれるようになったものだという。

 山下さんの「猫返し」エピソードは一度だけではなく、代替わりした別の猫がいなくなった際にも、神社にお参りしたところ無事戻ってきたという話がある。二度にわたる「猫返し」で、山下さんも「いよいよ御利益は本物だ」と話していたという。

 もともとジャズ好きだったという宮崎さんはこれをきっかけに山下さんと親交をもつように。のちに、山下さんは神社のために雅楽の曲「越天楽」のピアノバージョンを弾き、そのCDを贈ってくれたという。現在、神社ではピアノで演奏された「越天楽」が流れている。ピアノの曲が流れる神社というのも珍しいが、実際訪れると違和感なく耳に入ってくるから不思議だ。

 山下さんの猫のエピソードは30年ほど前の話だが、これをきっかけに現在にいたるまで、神社には全国から御利益を求める人々が訪れている。最近多いのは、九州地方の人だという。

地震以降は、熊本県や大分県、鹿児島県など、九州の方の御祈願が多くなりました。地震がきっかけでいなくなってしまった猫が多かったようです。最近では奄美大島の方が、『こちらにお参りした結果、猫が帰ってきました』ということで、お礼の参拝にいらしてくださいました」(宮崎さん)

 実際に参拝に来る人すべてと話すわけではないため、どのくらいの猫が帰ってきているのかははっきり分からないそうだが、絵馬を見る限りでも「無事に帰ってきました」「見つかりました」といった報告は散見される。最近では、迷い猫だけでなく、「飼い猫が健康でありますように」「長生きしますように」といった、猫の健康祈願に訪れる人も少なくないという。確かに猫の像や絵馬はかわいらしく、愛猫家ならば一度は訪れたい場所と言えそうだ。

 実は自身も猫好きだという宮崎さん。現在も14歳になるおばあちゃん猫を飼っているそうで「御利益なのか、おかげさまで長生きしてくれています」と笑顔で話す。

 猫にまつわるエピソード、猫の像に猫の絵馬、そして猫好きの宮司が待っている神社。猫好きにとっての新たな「聖地」になりそうだ。(文・横田 泉)