かつて西洋では魔女や魔法の存在が身近に感じられていた時代があった。ここ日本でも、古くは祈祷師や呪術を疑うことはなかった。しかし科学が進化し近代化するにつれ、そうした“迷信めいたもの”は姿を消していった…… とされている。

 ところが、魔法は死に絶えてはいないと語るのが作家の海野弘氏だ。彼は、むしろ近代以降に魔女のイメージが氾濫し大量に複製されていると自説を唱える。海野氏の新著『魔女の世界史 女神信仰からアニメまで』(朝日新書)によると、現代の魔女の歴史には、19世紀末、1970年代、20世紀初頭という三つの波があるという。
 
 第一波は19世紀末。当時、写真技術や印刷技術の発明によって、あらゆるものが視覚化され、複製されていき、それに伴い「魔女も見えるようになった」と著者は仮説を立てる。そうして可視化された魔女のイメージが汽車や汽船といった交通技術によって行き来し、世界中のあらゆる魔女像の収集、分類が可能になったというのだ。つまり、それ以前にあった「森の中の老婆」といった通り一遍の魔女のイメージから、多彩で華麗な魔女像が19世紀末に現れたのである。

 第二波は新魔女運動の起こった1970年代。1951年、英国の魔女禁止法(アンチ・ウィッチクラフト法)廃止によって合法的に魔女が復活を果たし、政治的で社会的な魔女(フェミニスト)が現れ、さらに学術研究やアートの分野でも魔女が再考されはじめた。こういった流れが1970年代の新魔女運動をもたらしたと著者は述べる。さらに新魔女運動は魔女復活の動きだけでなく、パンク・ロック、ゴシック、ファッション、SF、コミックなどに影響を与え、サブカルチャーやカウンターカルチャーといった独特の世界を作った。

 魔女のイメージが影響を与えたこれらの現象を著者は新しく「魔女カルチャー」とカテゴライズしている。その「魔女カルチャー」が広まった20世紀初頭から現在にいたる時代が現代の魔女の第三波である。

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