それまで、アングラ的で閉ざされてきた「魔女カルチャー」であったが、1990年代半ばのインターネットの導入により、大衆に広く知られるようになった。海野氏は、世界中の雑多な文化の引用によって作られる「魔女カルチャー」はインターネットに最も適したサブカルチャーであるとした上で「魔女カルチャー」の広まりとともに魔女の概念も広く知れ渡り、現代では様々な魔女が誕生していると指摘する。氏によると、きゃりーぱみゅぱみゅや初音ミク、AKB48までもが現代の魔女現象の一つだそうだ。そう、海野氏によると、昨今は特に魔女のイメージが氾濫しているというのだ。その理由について彼は、こう分析している。

「おそらくそれは<魔女>こそ現代の願望だからだ。ただし、願望といってもそれは二つの方向を持っている。一つは肯定的、もう一つは否定的だ。肯定的な方は、~であったらいいな、という願望である。人々は魔女になりたい、と思う。それは別世界に飛びたいという夢である。(中略)否定的な方も、今ここに不満があることは同じだ。今ここに敵がいる。その敵を<魔女>として投影する。今ここの世界に悪や災害をもたらすのはその<魔女>なのだ。陰謀説が横行し、差別論が溢れる。誰が悪いのか、悪いのは<魔女>である。<魔女>は、肯定にも否定にも使えるまことに便利なイメージなのだ。畏れつつ憬れる。<魔女>はいわば万能細胞であり、いかなるものにも応用できる」(本書より)

 時代とともに魔女のイメージはどう変わっていったのか。そして、そのイメージは今なお、なぜ氾濫しているのか。蠱惑し、闘い、変容する魔女の歴史をまとめ読みしたい人に、お勧めの一冊だ。