家庭でも日々、牛乳・乳製品が捨てられている

 そして、さらに忘れてはいけないのが、「家庭で廃棄される牛乳」がこれと同じくらいあるということだ。

 農林水産省及び環境省の「平成30年度推計」によれば、日本の食品ロス量は年間600万トンでその内訳は、返品や売れ残りなどの事業系が324万トンで、家庭系からが276万トン。つまり、半分近くは家庭での買いすぎ、食べ残し、消費期限切れなどが理由で廃棄されたものなのだ。

そんな家庭から捨てられる食品の代表格が、実は牛乳である。

 2020年5月、生活情報誌「オレンジページ」が20歳以上の女性1081人を対象にアンケートをおこなったところ、61.9%が消費期限や賞味期限を過ぎた食品を「捨てることがある」と回答し、どんな食品を捨てるか質問したところ、「牛乳・乳製品」(59.2%)がトップだった。

 これは多くの人も思い当たるフシがあるのではないか。冷蔵庫に入れたままで気がついたら放ったらかしで、長期間放置してヨーグルトのようになってしまった、なんて話は珍しくない。

 つまり、今回の報道を受けて、「苦労して育てた牛の生乳が5000トンも廃棄されるなんて、酪農家の皆さんに申し訳がない」と心を痛めていらっしゃる方も多いだろうが、ちょっと視野を広げてみれば、常日頃から我々は5000トン以上に莫大な量の牛乳を廃棄しているという現実があるのだ。

 誤解なきように言っておくが、「だから生乳5000トン廃棄なんて大した問題じゃない」などと主張したいわけではない。岸田首相がおっしゃるように、国民一丸となった「年末年始、1億牛乳飲もう運動」を始めたところで、廃棄されている牛乳が減少していくだけで、生乳5000トンにはそれほど反映されず焼け石に水ではないか、と言いたいのである。

「せっかく、みんなで牛乳を飲もうという機運が高まっているのに水を差すようなことを言うな!」というお叱りが飛んできそうだが、別に意地悪で言っているわけではない。牛乳をめぐる「厳しい現実」を直視すればどうしてもそのような結論にならざるを得ないのだ。

 それは、若い世代を中心に牛乳の消費が減少しているという、いわゆる「牛乳離れ」である。

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日本人の深刻な「牛乳離れ」は「数字」が引き起こしている