※写真はイメージです(GettyImages)
※写真はイメージです(GettyImages)

「校内暴力」や「学級崩壊」などの言葉は久しく聞かれないが、いま小学校では新たな問題が顕在化してきている。「よい子」を振る舞う児童が急増し、裏ではいじめや問題行動を起こしているという。その理由を28年間小学校教諭として教壇に立ち、現在は白梅学園大学子ども学部子ども学科で教える増田修治教授に聞いた。(フリーライター 岡田光雄)

●児童の半数が「よい子」を演じ いじめの主犯は陰で操る

 新型コロナウイルスによる影響で、多くの小学校では長らく休校を余儀なくされ、児童の学習に遅れが生じている。そんな中での今年6月、増田教授は429人の小学校教員らに実施したアンケート結果を発表(調査期間は2019年9~10月)。それによれば、「『よい子』を振る舞う生徒が増えたと思うか?」という問いに「そう思う」「やや思う」と回答した教員は48.5%に上った。同様の調査を行った1998年は35.4%だったため、13ポイント以上も増えた計算だ。

 増田教授は、「よい子」を振る舞う児童とは「表面的には反発やキレたりなどせず、先生の言うことをちゃんと聞いているけれど、内心ではストレスや不安などをため込んでしまっている子」と説明する。そうした児童は具体的にどのような問題行動を起こしてしまうのか。増田教授が調査した2つの学校の事例を紹介したい。

 1つ目に紹介する事例は、ある市立小学校での出来事だ。

「その小学校では、4階のトイレの窓からトイレットペーパーや洗濯ばさみ、ぞうきん、手袋などが、窓のそばの道路に投げ捨てられるという事案が発生し、地域住民にも大きな衝撃を与えました。いたずらを行ったとされる5年生の児童3人を突き止め、問いただそうとしましたが、彼らは最後までシラを切り通しました。おそらくは私たちに現場を見られているわけではないので、ごまかせると思ったのでしょう。この3人のうち1人は実行犯ではなく一見すると『よい子』でしたが、陰で人を操るタイプでした。他の児童たちも彼らが犯人だと知っていたようですが、報復を恐れてかほとんど誰も名前を言いませんでした」(増田教授、以下同)

 2つ目に紹介するのは、首都圏にある小学校の特別支援学級(支援が必要なハンディがある児童がいるクラス)のケースだ。

「その学校の通常学級に通う児童が、特別支援学級のハンディのある児童に対し、いじめを日常的に行っており、『お前、なんで生きてんの?』『死ねよ』など信じられないような罵詈(ばり)雑言を浴びせていました。このケースの場合もいじめを裏で主導していたのは、いわゆる『よい子』タイプの児童。その子はとても頭がよくて、決して自分は実行犯にならず、授業中に騒ぎそうな子をたきつけては学級崩壊するように働きかけたりもしていました。私が『なんでそういうことをするの?』と尋ねてみると、児童は『塾で勉強しているから授業を聞く必要がないし、学校の授業を壊しちゃえばみんなが勉強できなくなって(相対的に)自分の評価が上がるから』と応えました」

次のページ
前近代的な学校スタンダード、抑圧に耐える児童と教員