●親が与える条件付きの愛と自己責任論がいじめを加速

 しかし、児童の問題の原因を学校教育だけに求めてしまうのも早計だ。子どもの人格形成には「親」からの影響が大きく関係している。

「『よい子』を振る舞う児童は自己肯定感が低いという傾向があります。たとえば、冒頭で紹介した首都圏の小学校(特別支援学級のいじめのケース)は、地域柄会社役員や弁護士、医師などいわゆるインテリ層の子どもが多く通っていました。そういう家庭環境で育った児童は、親御さんから常に『勉強しなさい』と言われ続け、『“勉強ができる”○○ちゃんだから好き』という条件付きの愛を受けて育てられるケースも多い。しかし、子どもにとってその愛は、『もし勉強ができなくなったら親から嫌われてしまう…』という見捨てられ不安をもたらし、自己肯定感を低下させてしまう。そうした自己肯定感の低さを満たすために、自分より下の人間を見つけていじめようとしたり、自分がいじめられないように過剰に自己防衛したりするのだと考えられます」

 前出のアンケート結果によれば、「学校でいじめが広がっていると思うか?」という問いに「そう思う」「ややそう思う」と応えた教員は、1998年は7.9%だったが、2019年は17.7%と、10ポイント近くも増加しているのだ。

 また、一部の親が子どもに押し付ける自己責任論の問題もある。

「いまの児童たちの間では自己責任論が広まっているように思えます。たとえば、勉強ができないのは自己責任、自分以外の誰かがいじめられるのは自己責任、ハンディを背負っているのも自己責任というような考え方です。そういう子は、家庭でも親御さんから『勉強を頑張らない子は社会で落ちこぼれる』『いまの頑張り次第で今後の人生が決まっていく』など自己責任論を教育されているようです。中には、そうした自己責任論を主張する一方で、他責思考というダブルスタンダードの親御さんもいます。前出の市立小学校の主犯児童の親御さんに『お子さんが学校の4階のトイレから物を落としまして…』と事件の話を報告したときも、『悪いのはうちの子だけですか?』と他責にしようとする発言もありました」

 増田教授は、これからの学校教育に必要なのは「柔らかい学級作り」と「裏情報の把握」だと語る。

「柔らかい学級作りの一環として、まず私は幼稚園や保育園、小学校などで『ともだち100人できるかな♪』(曲名『一年生になったら』)と、歌うのはやめましょうと提唱しています。なぜなら、友達100人なんて別にできなくたっていいし、そもそもできるわけがない。大人が小学生時代にできもしなかったことを一方的に子どもに求めるのは酷というもの。それに、児童をひと所に無理に集めようとすると、そこからはみ出した子がスケープゴートにされてしまうリスクもあります。そして、いじめ問題の解決のためには裏情報の把握も必須。いまの児童たちはLINEなどを使って裏でつながっているため、教員は情報量で圧倒的に子どもたちに負けています。親御さんとも連携して、児童の裏側の情報をきちんと把握することがなによりも大切です」

 子どもは大人と社会を映す鏡。水面下で他者を言葉巧みに操り、追い詰める児童がいたとしても、その子もまた被害者の一人であることは言うまでもない。