●「分断の時代」が世界でも日本でも始まっている

 ここで念のために言っておくが、本稿において僕は、批判派、反ヘイト派、どちらかの肩を持つことはしないし、評価もしない。たんに状況を説明して、企業が取るべき態度が何かを考えているだけだ。今回の炎上事件で起きたことは、つまりは水原希子、およびサントリーがネトウヨとパヨク双方に政治利用されたということだ。パヨクはパヨクで、今回の件の背景を無視して「差別だ、ヘイトだ」と騒ぐ。ネトウヨはこれに対して「反日的な芸能人起用を批判しているだけで、民族差別ではない」と主張する。その主張はどこまで議論しても平行線を辿るばかりで、決して交わることはない。むしろ、溝は深まるばかりだ。

 基本的に、企業はこのような政治的対立構造に巻き込まれたくないので、CMキャラクターはなるべく政治的な色が付いていない芸能人を起用することが鉄則だった。芸能人や事務所もそのあたりの事情はよく理解しているので、日本の芸能人は特に政治的な言動は慎む傾向にあった。従来はそれが正解であり、常識だった。しかし、時代は変わりつつある。

 というのも、ご存じのとおり、今は世界的に「分断の時代」だ。ヨーロッパで移民排斥の動きが加速し、極右政党が急伸し、昨年の米大統領選ではトランプが勝利した。アメリカもヨーロッパも分断されたと言われたが、昨年くらいまではそれはまだ欧米での出来事だと日本人の多くは感じていたと思う。しかし今年に入り、特に加計学園報道が過熱した頃から、日本も右派と左派で大きく分断されてきたと感じる。この分断は、北朝鮮問題や憲法改正問題を通じて、さらに大きくなるだろう。

●政治的スタンスを示さないことがリスクになる?

 分断が大きくなると、これまでは政治的スタンスを明らかにしないことがリスクヘッジになっていたという状況が変わり、むしろリスクになるケースが出てくるだろう。すでにアメリカはそうなっている。その端的な例が、テイラー・スウィフト問題である。この世界の歌姫は、11月に3年ぶりの新アルバムをリリースする。当然、プロモーションが行われ、メディアでの露出も増えている。しかし、露出が増えるに比例して問われているのが、「トランプ政権に対するスタンス」である。

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